みかん小説
本棚

"死んだ母を名乗る女" 第18話

奪還された座と再発の選択

母のを読んだ翌、私たちは弁護士を通じて、千恵子叔母が正に所持していた母の預通帳と実印の返還続きを完させた。 方の窓へ向かい、凍結されていた座の名義変更と残確認をう。

窓の端末に表示された残は、母がに遺してくれたわずかな預と、文彦氏から振り込まれていた支援の残余分をわせ、約百万円。 叔母が活費や借返済のために引きしていた形跡はあったものの、義親の転と迅速な警察の介入のおかげで、最悪の全額散逸だけは辛うじて免れていたのだ。

「美咲、このおはおが受け取れ」 をた駅広のカフェで、斗が通帳を私に押し戻した。 「えっ……でも、これはお兄ちゃんと半分に分けるべき遺産よ」 「いいんだ」斗は首を横に振った。 「俺は京で会社員として自してえている。実の管理を引き受けて、あの叔母の矢面にって戦ってくれたのはおだ。それに……この実のと建物も、おの名義にしてある。売却するなり、リフォームしてむなり、おのの再発のために自由に使ってくれ」

兄の温かな遣いに、胸がくなった。 父がくなり、母がくなり、理尽な親族の悪に晒されながらも、私にはこんなにも頼もしく、誠実な兄がいてくれた。

広告

それだけで、これまでの苦労がすべて報われるような気がした。

「ありがとう、お兄ちゃん。……私、このを売るのはやめにするわ」 「え? 売らないのか?」 「ええ。職からはしいけれど、を買って通勤すれば通えない距じゃない。何より……ここは父さんと母さんが汗垂らして建てて、私とお兄ちゃんを育ててくれた切な所だもの。あんな叔母のせいで放したくないの」

私の決に、斗は目を細めて力く頷いた。 「そうか。母さんも、きっと国でんでるよ」

そのの夕方、私たちは池田精密業の本社ビルを訪れ、池田文彦社と面会した。 奪還した預のから、叔母が正に受け取っていた現留の全額――百万円を、利息を添えて返するためだった。 しかし、応接に通された文彦氏は、私たちが差しした切を瞥し、静かに首を横に振った。

「浅沼さん。このおは、受け取れません」 「ですが、これは叔母が騙し取ったおです。池田社が母のために善で面してくださったおを、私たちがそのままいただくわけにはまいりません」 私がいがると、文彦氏は柔らかな笑みを浮かべ、いがけない提案をにしたのだ。

「もしどうしてもとおっしゃるなら……このおは、志保子さんが望まれたように、『困っている誰か』のために使いませんか。

例えば、病気と闘う子どもたちのための基へ、志保子さんの名義で全額寄付するというのはいかがでしょう?」

その崇な提案に、私と斗は顔を見わせ、く胸を打たれた。 の善を私利私欲のために奪い取ろうとした叔母と、善をどこまでも社会の温もりへと昇華させようとする文彦氏。 の品格の差とは、財産の寡ではなく、のあり方によって決まるのだということを、私は改めて教えられた気がした。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: