みかん小説
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"死んだ母を名乗る女" 第5話

井裏の蠢きと戦慄の線

兄からの指示を受けた私は、努めて平静を装いながら、実の掃除を再した。 もし叔母がの敷内、あるいは隣からこちらの様子を監しているとしたら、怪しまれるわけにはいかなかったからだ。

リビングの掃除をかけ、窓ガラスを拭き、ゴミ袋をまとめながら、私はのの細部を注く観察した。 言われてみれば、おかしな点ばかりだった。 放置されていたはずなのに、キッチンの角コーナーには最使われたようなわずかな洗剤の匂いが残り、蔵庫のは空だったが、コンセントが差し込まれたまま運転が続いていた。 そして何より――階のへがっただった。

物置代わりに使っていた畳の。 央に敷かれた畳のには、うっすらと埃が積もっていたが、押し入れのの畳だけが、自然に擦れて埃が払われていたのだ。 見げると、押し入れの部にある袋(てんぶくろ)の襖が、わずかセンチほど、黒い隙をけて呼吸するようにをけていた。

(……まさか、ここから……?)

息を殺し、脚を持ってきて袋を覗き込もうとした瞬―― カサリ。 井の奥から、乾いた物がをよじるような、微かな摩擦音が響いた。

ヒッ、と喉の奥で息を呑み、私は咄嗟に線をした。

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ただのネズミや鳥ではない。 微かに漂ってきたのは、っぽい防虫剤の匂いと、々しいの脂の匂い。 あの井裏の漆黒ののに、今、この瞬も、何者かが潜み、息を殺して私を見ろしているのだ。

全の毛穴からや汗が噴きし、臓が鐘のように肋骨を打ち鳴らす。 私は震えるに力を込め、わざとらしくきな伸びをしてみせた。 「あーあ、埃っぽくて嫌になっちゃう! 今はもう疲れたから、来週また業者を呼んで具を全部処分してもらおうっと!」

声で独り言を叫びながら、私は持参していた型のモバイルバッテリー型隠しカメラを、の鴨居の目に紛れ込ませるようにして設置した。 レンズの向きを、押し入れと袋が完璧に画角へ収まる角度へと微調する。 さらに、階の居の置き計の裏にも、兄から送られてきた体検能付きの超型Wi-Fiカメラを忍ばせた。

午半。 の空が朱に染まり始めた頃、私はすべての戸を閉め、玄関の鍵をに施錠して実をにした。 扉をて、駅へ向かう坂を歩きながら、元のスマートフォンで防犯カメラの専用アプリを起する。 画面には、モノクロの赤線暗モードに切り替わった、階の静まり返った映像がリアルタイムで映しされていた。

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数分。 画面の隅に表示されていた『体検通』が、ピピッと赤く点滅した。

私のが、の真んでピタリと止まった。 スマートフォンの画面ので、袋の襖が、ギギ……と音をてるようにゆっくりと横へ滑りいたのだ。 そして、その暗のから、乱れた髪交じりのと、ギョロリと血ったつの瞳が、ゆっくりといずりてきた。

千恵子叔母だった。 叔母は器用に先で押し入れの段を踏み台にし、音もなく畳のへとりった。 そして、私が丹に掃除を終えたばかりのの真んにち、仏壇の方角を向いて、クツクツと喉を鳴らして笑い始めたのだ。

『ふん……馬鹿な娘ねえ。私がここにいるともらずに、せっせと掃除なんかしちゃってさ』

スマートフォンのスピーカーから漏れ聞こえてくる、叔母の々しい肉声。 だが、次の瞬、叔母が胸元のの隙から取りした「あるもの」を目にした、私の全の血液は、瞬にして沸騰し、凍りついた。

叔母がにしていたのは、古びた冊の預通帳と、実印。 そして、その通帳の表にのマジックでされていた文字は、違いなく――母がぬ際まで肌さず持っていたはずの、父の遺産を管理する隠し座のものだったのだ。

『くあの現留が届かないかしらねえ。

……んだ姉さんの名を使って引きすは、本当に最だわ』

卑た笑みを浮かべる叔母の姿をに、私はスマートフォンの画面を爪が割れるほどく握り締めた。 もはや、ただの法滞ではない。 この女は、者の尊厳を靴で踏みにじり、底れぬ巨額の詐欺を現形で犯し続けていたのだ――!

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