"シャッターを切らなかった日" 第16話
俣といた封筒
がけると、恵子が町をると言いした。
福岡の郵便関係の仕事に応募し、から働けることになったのだ。僕はおめでとうと言ったが、声がうまくなかった。倉庫の展示も、写真の使用許を確かめる仕事も、恵子がいなければかないとっていたからだ。
「私がいなくなったら困るって顔してる」
「……困るよ」
「じゃあ、困らないように引き継いで」
恵子は分いノートを僕に渡した。展示した写真の番号、連絡先、許をもらった付、撤回の申し、複写してよい範囲。き込みは細かく、何度も消してき直した跡があった。
「これを作るのに、こんなにがかかったの?」
「写真を撮るには、見えない仕事があるの」
彼女は笑った。
発の、僕は駅で記写真を撮ろうとした。恵子はし考え、首を振った。
「今は撮らないで。見送られる顔を、誰かに見せたいわけじゃないから」
僕はカメラをしまった。
「僕のアルバムに入れるだけでも?」
「それでも、今は嫌。代わりに、私が着いたら写真を送るよ」
駅のベンチには、恵子のさな鞄が置いてあった。そこには、彼女が自分で選んだ町をれる理由が詰まっている。僕がそれを寂しい別れの枚に決める必はなかった。
列がきすと、恵子は窓からを振った。僕も振り返した。カメラを持っているのに撮らない僕を見て、恵子は笑ったようだった。
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週、福岡からが届いた。
《しい職で、俣から来たと言うと、瞬黙るがいます。でも、私は言うことにしました。言うかどうかを自分で決められるのが、今の私には事だから。》
には、角の写真が枚入っていた。恵子が自分で撮ったものだった。面の留所で、々が傘を畳んでいる。特別な事件は何も起きていない。
《こっちにも、毎を暮らしているがいます。俣の写真も、そういうふうに見てもらえたらいいね。》
僕は写真を倉庫の台帳に入れず、自分の机に飾った。これは展示のために送られたものではない。僕宛てのに添えられた、枚の私信だった。
その違いが、今はよくわかった。
僕は恵子へ返事をいた。《写真をありがとう。これは僕の机に置いておく。展示にはさない》。すると次の便で、《そうしてくれるとって送った》と返ってきた。くへっても、互いに写真を見せることはできる。けれど、見せてもらったからといって、のへ渡す権利まで受け取ったわけではない。
発、恵子は、展示の仕事をしているうちに町をれるの話も聞くようになったと言っていた。就職先でを尋ねられ、答えるまでに迷った友。族を置いてることに罪悪を抱く同級。反対に、どこへっても俣だと名乗り続ける。
「残るだけが町のじゃない」と、恵子は言った。その言葉で、僕は初めて自分のを考え直した。
がづくと、写真館の親方が言った。
「お、卒業したらどうする」
「写真の仕事をしたいです」
「写真館に残るのか、へるのか」
僕は答えられなかった。町をることは、町を捨てることなのか。町に残ることは、正しいことなのか。そんな問いを、自分にも押しつけていた。
親方はカメラの裏蓋をけ、空のフィルムを見せた。
「撮る所を決めるのも、おだ。ただ、どこで撮っても、写るの暮らしを置いてくるな」
僕はまだを決めなかった。代わりに、恵子の台帳をしい帳面へき写し始めた。次に引き継ぐが困らないように、字をしきくした。