"シャッターを切らなかった日" 第6話
誰のための説文
あの会議の帰り、恵子が追いかけてきた。「さっきののこと、誰にも話さないで」と言った。僕はうなずいた。あの注文主の名も、どこの学へくかも、僕が記事にすることではない。町のでを隠さなければならないかもしれない、そのは伝えたい。けれど、誰かの秘密を暴くことと、町のが抱える問題を伝えることは、同じではなかった。
枝さんのを撮り直したのは、ののだった。
僕は脚とカメラを持ってき、最初にフィルムを入れずに構図を確かめた。枝さんはミシンの横に、仕事の具をつずつ並べた。裁ちばさみ、糸巻き、注文票、使い込んだ物差し。学は仕がったものと、まだ袖をしたままのものを着ずつ掛けた。
「きれいに並べすぎじゃないですか」
僕が言うと、彼女は笑った。
「お客さんが来るときは、いつも片づけるものよ。散らかってるところだけが本当じゃないでしょう」
なるほど、とった。僕はこれまで、片づいていない部や疲れた表の方が「本物らしい」とい込んでいた。けれど、誰かがにるためになりをえることも、そのの活の部だった。
枚目はの観。枚目はミシンに向かう枝さんのろ姿。枚目を撮ろうとしたとき、彼女がをげた。
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「そこからだと、注文票の名が見える」
僕はづいて確かめた。には客の所までかれていた。何気なく写した細い文字が、あとで誰かのを教えてしまうことがある。
「裏返します」
「ううん。名のところだけ、をねて」
彼女はい端切れを置いた。仕事の途であることは残し、客の秘密だけを隠した。
現像した写真は、そののうちに見てもらった。枝さんは枚を選び、枚を返した。僕が番気に入っていた横顔の写真は、返された方だった。
「これ、がいいんです」
「そうね。でも、今は顔をしたくない」
理由は聞かなかった。
代わりに僕たちは、説文を緒にいた。
《本仕。学の直し、作業着の繕いを受け付けています。撮の、注文のを着仕げました。》
僕にはしにえた。枝さんは、そのさを気に入った。
「私が今もをけてることが、わかればいい」
聞社から訂正記事が届いたのは翌週だった。面の片隅に、回の写真説が面だったことと、本の承なく写真を掲載したことへのおわびが載っていた。さんは自分の署名も入れた。
僕は枝さんに聞を届けた。彼女は最まで読み、棚にしまった。
「これで終わり、とは言わないよ。でも、かないよりずっといい」
その晩、公民館で展示のしい決まりが決まった。
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写真を撮るに目を伝える。展示に使う写真と説文は、写るに見せる。あとから撤回したいと言われたら、できる限り応じる。写真に写るが複数いるは、の解だけで済ませない。
枝さんは自分の写真を枚並べ、赤鉛で丸と線を付けた。丸は展示してよいもの、線はの案内だけに使うもの。僕はその印を見て、初めて写真の用途にも境界があると気づいた。度「撮っていい」と言われれば何にでも使えるとっていた自分が、し恥ずかしかった。
「にいておこう」
恵子が提案した。
「約束だけじゃ、また忘れるから」
僕は最初、そんなげさなことをする必があるのかとった。写真枚に、何もの判をもらうのは面倒だ。
けれど、会議の終わりにさんが言った。
「面倒をかけるのは、写される方ばかりじゃなくていい」
その言葉で、僕は初めて納得した。
帰り際、岩崎さんが僕を呼び止めた。
「おの親父さん、にいるんだろ」
「はい」
「なら、うちの連のことも撮ってみろ。ただし、のので待ち伏せするな。本が話す気になるまで、カメラをすな」
僕はうなずいた。岩崎さんは続けた。
「の責任をめろって言ってるんじゃない。そこを違えるなよ。働いているの暮らしを、責任の代わりに並べられたら困るんだ」
僕はその夜、展示のノートのページ目にいた。
《写っているものと、写っていないものを、混同しない。》
それは写真の技術ではなく、僕にりなかった約束だった。