"75万円を借りに来た私に、銀行が告げた65億円の秘密" 第4話
億円のペン
のペンは、会議の照を反射してたくっていた。
「今決めてもらって構わない」
悟はそう言った。
「続きは全部こちらで引き受ける。税理士も弁護士も用する。牧さんは名をくだけでいい」
私は億円と印刷された数字を見つめた。
億円あれば、働かずに暮らせるかもしれない。
を借りるための万円がりないと悩んでいた自分が、急に馬鹿らしくえた。
母と暮らした古いアパートも。
直子おばちゃんが節約しながら暮らしていた部も。
すべてがい昔の話になってしまうような額だった。
「会社に入らなくてもいいんですね」
「ああ」
「神崎と関わらなくても?」
「株の理が終われば、必以に関わることはない」
それなら、署名してしまえばいい。
瞬、本気でそうった。
私は神崎などりたくなかった。
母が何を隠していたのか考えるのも苦しかった。
億円を受け取り、そのから万円だけをに使えばいい。
そうすれば悟と度と会わなくても済む。
指先がペンへ伸びた。
その瞬だった。
島支の言葉が、のによみがえった。
「今、誰かからきな契約への署名を求められても、信託担当の確認を受けるまでは何も署名しないでください」
私は空でを止めた。
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「どうした?」
悟が聞いた。
「持ち帰ります」
「何を?」
「この契約です」
私は類を自分の鞄へ入れた。
悟の表が、ほんの瞬だけ変わった。
目元がくなった。
「牧さん、億円の話だぞ」
「だからこそ、今ここで決められるほど私は賢くありません」
「慎だな」
「そういうことにしておいてください」
私は席をった。
会議をてエレベーターに乗った瞬、膝から力が抜けそうになった。
もし島支の忠告がなければ、私は違いなく署名していた。
翌、私は弁護士の事務所へ契約を持ち込んだ。
さんはページ目を見ただけで言った。
「署名しなくてよかったですね」
「そんなに悪い条件なんですか」
「まだ分かりません」
「え?」
「だから調べるんです」
さんはすぐに、独した企業評価の専へ連絡を取った。
非株式の価格は、会社の純資産、収益、保産、将来性、類似企業の準など、くの材料を見なければ判断できないという。
「数週はかかります」
「その、私は何をすれば?」
「いつも通り活してください」
「それだけですか」
「それが今の牧さんにとって番の防です」
私はその言葉に従った。
翌朝からまた直しのへ通った。
ズボンの裾をセンチげ、ほつれた袖を縫い、壊れたファスナーを取り替えた。
業用ミシンが、カタカタと規則正しい音をてる。
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この音を聞いているだけは、億円という数字がざかっていった。
数字は、きければを賢くするわけではない。
むしろきすぎる数字は、自分が何をっていて何をらないのかさえ分からなくさせる。
私はそれををもってった。
それから約か。
さんから話が来た。
「牧さん、評価報告がまとまりました」
いつもより声がかった。
「結果は?」
「話ではなく直接お話ししたいです。、戸先も同席します」
戸先は、今回の企業評価を担当した公認会計士だった。
翌、私は午だけにた。
預かっていたウールのカーディガンの虫い穴を、裏から当て布をして丁寧に塞いだ。
目のの穴なら、どう直せばいいか分かる。
だが神崎というきな布の、どこが破れているのかは、まだ見えなかった。
午。
法律事務所の応接には、さんと戸さんが待っていた。
戸さんは分い資料をき、私を見た。
「結論から申しげます」
私は膝のでを握った。
「神崎悟氏が提示した億円という価格は、妥当とは言えません」
「では、いくらなんですか」
戸さんは枚の資料を私のへ滑らせた。
「牧さんが保する株式部分だけで、現点では億円と見るのが理です」
瞬、が分からなかった。
「……?」
悟は、億円の価値がある株を、億円で買い取ろうとしていた。
りより先に、ぞっとした。
だが戸さんは資料を閉じなかった。
「問題は価格だけではありません」
そう言って、別のいファイルを取りした。
「神崎悟氏が、なぜこれほど急いで牧さんの株を回収しようとしたのか。その理由も分かりました」
私はそのファイルから目をせなかった。
私の持つ株は、ただ価なだけではなかった。
神崎にとって、どうしても今すぐ取り戻さなければならない“鍵”だったのである。