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"車椅子の妻を離島に置き去り――船上の夫が見たもの" 第14話

千百万円の穴

枝先の事務所で、私は共同座の取引履歴を並べた。万円の「業務替」は件だけではなかった。過かに、似た名目の振込が回あった。計は百万円。振込先はいずれも「岡企画」という会社で、黒いファイルの名刺と致していた。夫は私たちの活費を、自分の事業の資に回していたのだ。

「これは夫婦のおだから、勝に使ってもいいと言われたらどうなりますか」。私が尋ねると、枝先は「財産の性質や使途を確認する必があります」と答えた。共同活のために積みてたを事業へ流用した事は、婚の財産関係を理するうえでだという。私は毎の計簿と、座へ入れた自分の与の記録を渡した。経理の仕事をしていたころの習慣が、こんな形で役につとはわなかった。

岡企画は、啓介の学代のが代表を務めるさな会社だった。方の空きを改修して貸別荘にする事業を宣伝しているが、公されている実績はほとんどない。夫は事故のしからこの計画に関わり、私が入院しているに個名義で資を借りていた。黒いファイルには借入契約の写しがあり、元本は百万円だった。

そこへ遅延損害と追加の替が積みなり、夫が返済を求められていた総額は約千百万円になっていた。

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私の賠償が振り込まれると分かったころから、催促の文が増えている。期限は末。啓介が私に通帳を渡せと迫った期となった。私はようやく、夫が額を聞いて指を震わせた理由を理解した。

「でも、どうして私ので返すことが当たりだとえたんでしょう」。私が呟くと、枝先はすぐに答えなかった。しばらくして「追い詰められたが、くにいる相を自分の問題の解決段と考えてしまうことはあります。ただ、それで為が正当化されるわけではありません」と言った。私は夫が最初からたいだったとはいたくなかった。病院でをさすってくれたの温かさは、嘘ではなかったはずだ。

けれど今の啓介は、私を妻としてではなく、返済に必なの持ち主として見ている。世話をしたのだからを受け取る権利がある、と何度も言ったのはそのためだろう。私は夫に謝していたし、介助の負担を減らす方法も探していた。それでも賠償を差しさなければがないという理屈は、どう考えても違っていた。

そのの夕方、啓介から姉へいメッセージが届いた。「千紗は回復を隠していた。俺に世話をさせておいて、てるようになったらを独占しようとしている」。姉は返信せず、画面を保した。

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続いて夫は、私の親戚数にも同じ内容を送ったらしい。叔母から「千紗ちゃん、本当に歩けるようになったの?」と話が来た。

私は叔母に、装具とすりがあればてること、常の移には子が必なことを説した。叔母はすぐに「そういうことだったのね」と言ったが、ほかの親戚全員が同じように聞いてくれるとは限らない。夫は自分の為を説する代わりに、私が正をしているような印象を広めようとしていた。

翌、事故の賠償続きを担当した保険会社から、私へ連絡が入った。夫を名乗る物が「妻は歩けるのに障害を偽っていた。賠償を見直すべきだ」と申したという。私は胸が詰まったが、担当者は落ち着いて「診療報に基づいて確認します。回復の経過があること自体は正をしません」と説した。私は最の診断を送ることにした。

話を切ると、姉が私の顔を覗き込んだ。「また啓介さん?」。私は頷き、しばらく黙ってから答えた。「私がったことを、あのはぶどころか、私を責める材料にしたいのね」。姉は悔しそうに唇を結んだ。私はそこで初めて、夫のために回復しようとしていた自分に別れを告げた。これからの訓練は、私自がきたい所へくために続ける。

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