"車椅子の妻を離島に置き去り――船上の夫が見たもの" 第9話
岸をれた
装具の具を締めるたび、の皮膚にい触が伝わった。私は膝の位置を確かめ、子のブレーキをとも固定した。港のすりは平棒よりく、元の舗装も訓練ほど平らではない。だから気にちがろうとはしなかった。すりに体をづけ、両腕へ体を預けてから、しずつ腰を浮かせた。
膝が震えた。装具が関節を支え、の裏にい圧力が戻る。私は呼吸を止めないよう識しながら背筋を伸ばした。界のさが変わる。の向こうにいたのデッキが、子から見ていたときよりもくじられた。ほんの数秒しか保てない姿勢でも、私にとっては半かけて取り戻したさだった。
の啓介がを乗りした。夫のがすりを掴み、肩から掛けた私の鞄が揺れた。声は届かなかったが、がきくくのが見えた。私は夫に見せるためにったのではない。けれど、てない妻を島へ捨てたとっているが、今どんな顔をしているかは分かった。
私は片をすりからそうとして、すぐにやめた。川さんに教わった通り、つことと全に歩くことは別だ。装具があってもの筋肉はく、をせば倒れるかもしれない。無理をして見栄を張る必はなかった。私はすりを握り直し、体の向きをほんのし変えた。
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子を引き寄せて座面を確かめ、ゆっくり腰をろした。
座った瞬、両が刻みに痙攣した。私は膝ので拳をき、息をえた。端末の画面には「応答待ち」の表示がている。やがてい子音が鳴り、「全な所にいますか」というメッセージが届いた。私は登録しておいた定型文から「けません。港の桟付。同者がちりました」を選び、送信した。
しばらくして港湾管理の扉がいた。作業着を着た髪交じりの男性がへて、周囲を見回している。私はきくをげた。「ここです」。男性は私を見つけると、急ぎでづいてきた。胸元の名札には「島田」とある。会社の川さんが教えてくれただった。
「通報があったのは、あなたですか。けがはありませんか」
「はい。夫に置いていかれました。話と財布も持っていかれました」
島田さんは瞬、言葉を失った。私の元に装具がついていること、子の横に杖が置かれていることを見て、慎に状況を尋ねた。私は展望台まで連れていかれ、夫が分の帰りの切符を用していたことを伝えた。島田さんは「まずへ」と言い、段差のない通から管理へ案内してくれた。
内には古いストーブときな無線があった。島田さんは子をかして子の通りを空け、温かい茶を入れてくれた。
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私は湯みを受け取ると、指先のたさに初めて気づいた。震えていたのはだけではない。夫が戻らないと分かったときから、ずっと体が緊張していたのだ。
「さっきの、あなたのご主が乗っていたといます」。島田さんは窓のを見た。「乗るに、こちらへ度来たんですよ。『妻が体調を崩して宿に残った』と言っていました」。私は顔をげた。島には宿の予約などしていない。夫はに乗るため、先回りして嘘をついていたのだ。
島田さんは机のの話を取り、会社へ連絡した。私が全な所にいることを伝え、夫が乗に話した内容を記録してもらう。続いて警察から確認の話が入った。私は自分の名と病状、島へ来た経緯を話した。何度も同じ説をするうちに、ので曖昧だった言葉がはっきりしていった。
私は「置きりにされた」のだ。夫婦げんかの延ではない。私が自力で帰れないとりながら、連絡段を奪ってちった。その事実を第者のでにできたとき、ようやく私はではなくなった。