"車椅子の妻を離島に置き去り――船上の夫が見たもの" 第7話
展望台への
島に着くと、連絡の員が子用の渡し板をかけてくれた。港の周囲には古い待所とさな売があり、坂のには民の根が見えた。完全な無島ではない。それでもがてしまえば通りがほとんどなくなることは、朝の静けさから分かった。私は待所の奥に「港湾管理」とかれた扉を見つけた。
「先にお洗いにきたい」。私が言うと、啓介は計を見た。「展望台までってからにしろ」。港の公衆トイレには子対応の表示があったのに、夫はち寄ろうとしない。私はもう度頼み、ようやくいだけ寄ることができた。個ので座面のの収納袋にを伸ばし、端末が入っていることを確かめた。さない角が指に触れたとき、息がし楽になった。
へると啓介は「遅い」と言い、私の返事も待たずに子を押し始めた。集落へ向かうを通り過ぎ、側の坂へ入る。舗装は古く、輪がを踏むたびに体が揺れた。坂は途からさらに急になり、啓介の息が荒くなる。私は何度も「もう戻ろう」と言ったが、夫は「あとし」としか答えなかった。
途、漁具を積んだ軽トラックが台、私たちを追い越した。運転していた配の男性が窓をけ、「そこからは子じゃ変だぞ」と声をかけてくれた。
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私は助けを求めようとをいた。しかし啓介が先に「丈夫です。すぐ戻りますから」と笑った。がりったあと、夫は私の元で「余計なことを言うな」と囁いた。
坂をり切ると、へ突きした展望台にた。いの壁と錆びたすりがあり、ベンチがつ置かれている。観客は誰もいなかった。波の音がきく、港の建物は坂のにさく見えた。私は景の美しさをじる余裕もなく、帰りのの傾斜を確かめていた。自力で子をろすのは危険だと、ひと目で分かった。
「啓介、ここで何をするつもりなの」
夫は返事をせず、スマートフォンで刻を確かめた。画面には何度も通が届いている。私は「姉から連絡が来ていない?」と尋ねた。啓介は「らない」と言い、話を裏返した。私は声をめた。「帰りの、あなた分しか予約していないでしょう」。その瞬、夫の表が変わった。
「の類を勝に見たのか」
「私の帰り方を決める類よ。見る権利がある」
啓介はしばらく黙っていた。やがて「ああ、そうだよ」と吐き捨てるように言った。「おが俺を信用しないから、しで考えてもらおうとった。通帳を渡す気になったら、迎えに来る」。私は夫が本気だと悟った。そこには衝なりではなく、事に帰りの切符を枚だけ取ったのたさがあった。
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「携帯を返して。私は帰る」。私がを伸ばすと、啓介は鞄を自分の肩へ掛け直した。「連絡されたらがないだろ」。私は子のブレーキをかけ、夫のが取っに触れないよう肘を引いた。これ以、坂の奥へ押されるのは避けたかった。啓介は舌打ちし、周囲にがいないことを確かめた。
「み物を買ってくる。ここで待ってろ」
港へりる背を見送りながら、私はを数えた。分、分。戻ってこないことは最初から分かっていた。私が坂をりられないと信じているのだ。やがての向こうからの汽笛が聞こえ、夫が予約した便の刻がづいた。私は座面のの収納袋へを伸ばした。端末を押せば救助は呼べる。それでも、できるなら港の管理へ戻り、夫が何をしたかをそので伝えたかった。
私はブレーキをし、ハンドリムを慎に握った。坂のには夫の姿が見えない。のひらに摩擦のがったが、私は輪をしずつめた。事故以来、何度も練習した移の作を、つずつ確かめる。曲がり角を越えたとき、港へ続くのの方に、見慣れた着が揺れるのが見えた。
夫は自販売ではなく、着きへ向かっていた。