"車椅子の妻を離島に置き去り――船上の夫が見たもの" 第5話
帰りの切符は枚
私は署名の写真を拡し、昔の類にいた自分の名と見比べた。漢字の形は似ていたが、「紗」の最の払いが違う。私はそこをいつもく止める。相談票の文字はきくねていた。啓介は私の名を何度も見ているはずなのに、跡の癖まではらなかったのだ。
翌朝、姉と緒に法律相談へく約束をした。夫が留守のうちに必な類と薬をまとめ、姉のへ移るつもりだった。けれど曜の夜、啓介はいつもよりく帰ってきた。居へ入るなり私の鞄を見て「どこかへくのか」と聞く。私は病院へ持っていく荷物だと答えた。嘘をつくのは苦だったが、このにだけは今、正直でいることが危険だとじていた。
「はにる。港まではで半だ」。夫は旅の予定を告げ、私のスマートフォンをに取ろうとした。私は先にそれを掴んで膝へ戻した。「連絡が必だから、自分で持つわ」。啓介はを結び、「好きにしろ」と言って寝へった。以の私なら、その言でしただろう。今は何かを諦めたのではなく、別の方法を考え始めたように見えた。
夜、私は姉へ状況を伝えた。子は「の朝に迎えにく」と返してくれた。私はのため、通院先の相談員から教わった支援窓にも連絡し、翌週の移段を予約した。
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の暗証番号は変更済みで、補償の座には夫が触れられない。できる準備をつずつ済ませていくと、ようやく息がしやすくなった。
そのとき、居のプリンターがさくきした。寝から無線で印刷したらしい。私は排トレーへを伸ばし、てきた枚のを見た。連絡の予約確認票だった。往は名、子台。ところが復には、啓介の名しかなかった。乗数は「名」。子の記載もない。
私は何度も数字を確かめた。予約サイトで数を違えただけかもしれない。島で別のを使うつもりなのかもしれない。そう考えようとしたが、復の便名は赤鉛で印がついていた刻と致していた。夫は最初から、自分だけが帰るを予約していたのだ。
私は予約票を撮し、姉へ送った。「は絶対にかない。朝、迎えに来て」。送信してすぐ、姉から「分かった。警察への相談も考えよう」と返事が来た。私は予約票を元の所に戻した。今夜のうちにをられればよかったが、玄関から駐までの段差をで全に越えるのは難しい。私は寝の鍵を内側からかけ、スマートフォンを枕のへ入れた。
午分、玄関で物音がした。目を覚ますと、啓介が旅用の鞄を寝の扉のへ運んでいた。私はベッド脇の子へ移り、扉のまでんだ。
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鍵をけるよう言われ、私は「旅にはかない」と答えた。すると夫は声を落とし、「分かった。じゃあ、今すぐおの姉に話して、俺がを盗もうとしてるとでも言えよ」と言った。姉にはもう伝えてある。私は黙ったまま、ドア越しに夫の音を聞いていた。
やがて啓介は「話しおう。無理に連れていくつもりはない」と言い、扉かられた。私は携帯で姉へ発信しようとしたが、池が切れていた。昨夜、枕のへ入れるに充ケーブルを抜いたままだった。慌てて充器を探すと、ベッド脇から消えている。夫が夜のうちに持ちったのか、それとも自分が別の所へ置いたのか。確かめる暇もなく、寝のから「子さんが来たぞ」と声がした。
私は鍵をけた。廊に姉の姿はなく、啓介だけがっていた。夫は私のから話を取りげ、「姉貴に会うに、し夫婦で話そう」と言った。そのろには、子のまま乗れるよう部座席を改造したレンタカーが待っていた。私が拒むと、啓介はい声で「今ここで騒いだら、度とに入れない」と告げた。私は玄関のへるまで、声をげることができなかった。
のドアが閉まった瞬、啓介のスマートフォンに通がった。助席の画面には「瀬戸由梨」という名と、い文が表示されていた。
「曜の面談は、奥様ご本が席されるのですよね」。