"車椅子の妻を離島に置き去り――船上の夫が見たもの" 第3話
秒のさ
週に度のリハビリの、担当の理学療法士・川真理さんは、私が子から訓練台へ移る様子を見て「今は位の練習をくしてみましょう」と言った。私は事故直、の指本かせなかった。最は首にわずかな反応があり、膝を固定する装具と平棒があれば、腕の力を借りて体を支えられるようになっていた。
「てることと、歩けることは別です。無理にをさないでくださいね」。川さんは何度もを押し、装具の留め具を確かめた。私は平棒を握り、腕で体を引きげる。膝の裏に支えが当たり、の裏へい圧力が伝わった。界がしずつがり、子から見げていた壁の計が目のさへづいてきた。
「秒。呼吸を止めないで。秒……秒」
座面へ戻った途端、全の力が抜けた。秒しかてなかったのではない。秒もてたのだ。川さんは記録用に経過をき込み、「ここから先はによって調子が違います。今はできても、は難しいかもしれません」と説した。その慎な言葉が、かえって信頼できた。
私は夫へいメッセージを送った。「今、装具をつけて秒てたよ。今度、見に来てくれる?」。以なら啓介は帰宅してすぐ抱きしめてくれただろう。返信が来たのはだった。
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「仕事。急ぎでもない連絡をしないでくれ」。私は画面を閉じ、記録用を鞄へしまった。
帰宅、川さんから話があった。病院の相談員を通じて、の全について確認したいという。私は夫が島への帰り旅を計画していると話した。島の名を聞いた川さんは、しを置いて「港から展望台まで、急な坂がある所ですね」と答えた。彼女は以、島の齢者向け移支援の研修に参加したことがあった。
「くなら、まず港と会社に子で利用できる経を確認してください。ご主が押せば何とかなる、という考え方は危険です」
私はパンフレットにかれた番号へ話した。会社の女性は、には簡易スロープがあるが、島の展望台までのは介助者がいても勧められないと説した。港のくにはさな集落があり、診療所もある。観案内に載っていない報をメモしながら、私は夫がなぜわざわざ展望台を指定したのか考えた。
その晩、啓介に会社の話を伝えると、夫は箸を置いた。「お、わざわざ話したのか。俺の計画が信用できないんだな」。私は静かに「子のことは確認が必だから」と答えた。啓介は笑わなかった。「俺が押すと言ってる。余計なことはするな」。会話はそこで終わった。
夜、夫が呂へ入っているに、私は自分の類箱をけた。
事故の診療記録、リハビリの計画、の本確認類をまとめ、姉へ預けるために写真を撮った。判断能力に問題がないことを証するためではない。もし夫が私の代わりに何かを決めようとしたとき、私自のがここにあると示すためだった。
翌朝、プリンターの排トレーに枚のが残っていた。啓介が仕事の類を印刷したのだろうとってに取ると、「期入居事相談票」とかれていた。利用者欄には、私の名がある。申込者は夫、連絡先は見らぬ女性の番号だった。
そして備考欄に、見過ごせない文があった。「本は現、銭管理と決定に支障あり」。私はそのを膝に置き、ゆっくりと度読み直した。