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"昭和46年、三日で逃げ帰った兄と消された就職記録" 第4話

あの夜、兄はどこにいたのか

さんの話を聞いたあと、私は兄に会いにった。ノ瀬からで分の材。兄は、そこに勤めている。私が結婚したことも、千が子を産んだことも、づてにっていただろう。けれど、こちらから訪ねることはなかった。

のにはしい社名の板があった。事務所で呼びしてもらうと、作業の男がてきた。こめかみに髪が混じり、の甲に古い切り傷があった。歳の写真と同じ面を、私は探した。「美枝か」。兄が先に言った。

「久しぶり」

「どうした。母ちゃんに何かあったのか」

私は首を振り、駅の写真を見せた。兄は瞥して、すぐに線をそらした。「展示に使うなら、好きにしろ」。

「兄ちゃん。陽精器に入っていない子がいたって、本当だったんだね」

兄の眉がいた。「誰に聞いた」

「さん。平田さんが怪をしたことも」

「に会ったのか」

「会ったよ。どうして何も言ってくれなかったの」

兄はの窓を見た。しばらくして、い声で言った。「今さら聞いて、何が変わる」。

「母ちゃんも私たちも、兄ちゃんは逃げたとってきた」

「そうわせておけばよかったんだ」

私はわずい声をした。「よくないよ。私、ずっと恥ずかしかった。兄ちゃんがそんなじゃないと信じたかったのに、誰にも説できなかった」

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。

兄は私を見た。その目にはりより疲れがあった。「おまで嫌ないをさせた。それは悪かった」。

「謝ってほしいんじゃない。何があったかりたいの」

の昼休みが終わり、くで械がき始めた。兄は計を見てから言った。「平田の名を、母ちゃんのですな」。

「なぜ?」

「……もう帰れ」

それ以は何も話してくれなかった。

私は帰りに、兄の勤め先の古参職員を訪ねた。事務員の原田さんは、昭からにいた。「正男君が来たときのこと、覚えていますよ。働かせてくださいと社にをげた。でも、料のことより先に『夜に話を借りられますか』と聞いてね」。

「誰にかけたんでしょう」

「京の労働相談所だったといます。、続けて話していました。何か類を送れとも言われていたわね」

私は帳にいた。兄はへ帰ったあとも、何かを諦めていなかった。

その頃、千は別の所を探してくれていた。学の同級だった平田隆のだ。平田はすでにをれていたが、古い町内会名簿から叔母の所が分かった。千から話が来た。「お姉ちゃん。平田さん、きてるよ」。私はわずちがった。

「どこに?」

「野で、さい修理をやっているみたい。ただ、に障害が残ったって」

私たちは次の休、平田さんを訪ねた。先に修理の計が並び、壁には古い具が掛けられていた。

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痩せた男性がを引きずりながらてきた。「正男の妹さん?」。最初の言に、私たちは頷いた。

「会ってくださって、ありがとうございます」

「俺は、あいつに礼も言えなかったんだ」

平田さんは奥の机から古い封筒をした。には、昭の付がある診療記録の写しが入っていた。病名はの骨折。診察は。兄が帰郷した翌だった。

「兄が病院へ連れてったんですか」

「直接じゃない。正男が労働相談所へ話してくれたおかげで、やっとへられた。来たが俺を診療所へ運んでくれたんだ」

私は息を吐いた。兄が京で置きりにしたと聞かされたは、兄ので助かっていた。

平田さんは続けた。「でも、正男がで何をされたか、あとから聞いた。俺もをした。でも丹羽のところに度届いて、送り返されたんだ」。

「丹羽さんのところに?」

私はそこで、平田さんの指先が震えていることに気づいた。彼は若いころの事故を、でほとんど話したことがなかったという。「に帰れなかったのは、怪のせいだけじゃない。親から借の話を聞かされて、どう説していいか分からなかった。俺が働きにくと言いしたから、に迷惑がかかったとってた」。彼は膝のにを置いた。「仕事を変えてからも、の械の音を聞くとがすくんだ。

計の部品に触るようになって、やっと自分ので何かを直せるとえたんだ」。

私は平田さんの痛むを見た。歳のに起きたことを、が『若いころの苦労』という言で片づけてはいけないとった。「写真の記録を直したいんです」と私は伝えた。「でも、平田さんが望まないことは公しません」。彼はしばらく考えてから答えた。「俺の怪を全部見せ物にするのは嫌だ。ただ、正男が逃げたんじゃないと分かるなら、名をしてもいい」。私はその言葉を帳へき、本に読み返してもらった。

「学に正男の連絡先を聞いたら、就職援会へ回された。俺が所をいた封筒も、相に渡らなかった」

私は母が燃やした類の片を見せた。平田さんは目見るなり「ああ、それだ」と言った。「その印が押してあるには、裏にもうつ契約があったんだ」。

「裏に契約?」

「紹介状じゃない。俺たちの親が、借の保証になるっていうだ。俺は事故のあと見せられた。治療代は保証へ請求すると言われたよ」

千が声をげた。「そんなの、聞いてない」。

平田さんは頷いた。「俺の親もらなかった。偽の署名だとう。でも正男ののことだけは、丹羽が別に類を持っていると言ってた」。

私は元が揺れるような気がした。母が兄の契約を燃やしたとき、丹羽は何を握っていたのだろう。

兄が逃げたという噂の背には、就職先だけではない別の仕掛けがあった。

平田さんは、私がちがりかけたとき、最の枚をした。封筒に入っていたのは、付のりきだった。

『次のについては、までに契約を取ること。正男が帰ったは、類を回収すること』

そのに、の名があった。丹羽源。そして、当の学で指導を担当していた教師、邦夫。

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