みかん小説
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"昭和32年、町中が機を止めた日に織り続けた73歳の女" 第12話

へ帰る賃

の初め、沢ので反分の清算がわれた。全部が注文どおりの値で売れたわけではない。違いでく回した反、糸の交換にした運送費、納期が遅れた分の追加運賃。その額を澄は皆のでつずつ読みげた。

「今回の通常分は約束どおり百円。直しで追加した仕事も別に計します。違いの分は、まず賃の半分を払っています。残りは回に分けて払わせてください」

園子がを挙げた。

「回に分けてって、確実に払えるの」

澄は主を見た。沢はちがり、荷済みの分の入予定を示した。

「元にあるはここまで。問からの入が遅れれば、私のの貯を取り崩すことになる」

「貯があるなら最初から払ってよ」と声がんだ。

「それも限りがあります」

騒ぎになりかけた、フキが机を指で叩いた。

「最初に決めた順番どおりにしましょう。今払える分を受け取って、残りは支払をにいてください。払えなかったら、そのは次の糸を受けない」

誰も急に納得したわけではなかった。それでも女たちはを受け取り、へ帰った。園子は封筒を胸の内側へしまい、ミネは財布のへ何度も数え直した。ヨシの取り分は反分と、見本を作ったの分をわせてもきな額ではない。

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だが苗の糸巻きに払われた分は別に封筒へ入っていた。

清算の、女たちはのの貸し借りについても相談した。糸巻き台を貸したままのがあり、別のには巻き芯を届けた子がいる。誰かがを借りたには、刻をき留めてあったを確かめた。昔は親しい柄だからと曖昧にしていたことが、のあとは気まずさになって残った。フキがずつ名を呼び、貸していた具を返すを決めた。したにはならない。それでも「うちが方に助けた」「あちらは返さない」というい込みがしずつほどける。ヨシは最まで席に残り、使ったの名をいた。自分だけがを助けてきたつもりになっていたのが、今ではひどくおかしかった。

帰り、ヨシはそれを苗へ渡した。

「自分のだよ」

「計へ入れます」

「入れるかどうかはおが決めればいい」

苗は封筒を見つめた。それから部を残して、残りを薬代の袋へ入れた。

「全部は入れません。信夫が元気になったら、で映画を見にきたいんです。あの子、学の友達がったって言うから」

ヨシは驚いた。自分たちが映画へくを残すなど、正吉がんでから考えたこともなかった。

「映画なんて、もったいない」

「分かってます。でも何も残さないで働いても、あの子はになるに全部嫌いになってしまう」

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苗は笑った。ヨシは止めなかった。

昼過ぎ、フキが珍しくで訪ねてきた。縞物の仕事は今回で段落したが、次の注文が決まっていない。問が同じ物を買うかも分からない。普通の裏の仕事は相変わらずなく、条件が折りわないもかった。

「来から、ミネが町の織物へくことになった」とフキが言った。

「うちの町のはどうする」

「父さんが売るって。ミネは嫌がったけど、なら毎同じにがるから」

ヨシはしばらく何も言わなかった。ミネの腕は、あの縞物を織るうちに確かになった。ここに残ってほしいとったが、それを言うのは自分の都だった。

「送別に、何かできないかね」

フキは笑った。

「あなた、昔なら『せっかく教えたのに』って言ってたわね」

「今もしってるよ」

は顔を見わせて笑った。笑ったあと、フキは言った。

「園子はしばらく休むそうよ。子の具が悪いに、納期を気にするのはもう嫌だって」

「それもいい」

「いいことばかりじゃない。活費は苦しくなる」

「そうだね」

ヨシは返事をくした。昔の自分なら、何か慰める言葉を探しただろう。今は暮らしの厳しさをっているから、簡単に言わない。

その週、沢が古い単価の裏を部だけ戻せないか、と問へ相談することになった。全部をの条件に戻せるとは言えない。

だが数量がないなら、品質を絞って売れる能性がある。女たちは受けたい者だけ名乗りると決めた。止める者を責めず、かす者も勝に条件を変えない。それは最初のよりずっと面倒なやり方だった。

ヨシはにある番古い杼を磨いた。正吉が直した傷が残っている。もうかすことはできない。それでも杼を捨てようとはわなかった。には働いてきたと具がある。それを誰かへ渡すなら、今までの自分のように無理をさせずに済む方法があるはずだった。

数、ミネが挨拶に来た。背負っていた呂敷には町ので着る作業が入っている。

「ヨシさん、これ返しに来た」

ミネは見本を織るに借りたさな定規を差しした。ヨシは受け取らず、を振った。

「持っておいき」

「でも、ばあちゃんの」

「同じものがもうつある。向こうで縞を測るに使うといい」

ミネは定規を握り、しうつむいた。

「私、あの、ばあちゃんを裏切り者って言った」

「そうだったね」

「ひどいことを言った」

「ひどいことをしたのは私だよ。そっちのほうが先だ」

ミネは首を横に振った。はその先を言わなかった。何を言っても、のがなかったことになるわけではない。

ミネがると、ヨシは縁側に座り、川向こうのの煙を見た。

あの子はもっと速いを使うだろう。自分のらない糸も扱うだろう。町が変わっていくことを、初めてし楽しみにった。

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