みかん小説
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"昭和32年、町中が機を止めた日に織り続けた73歳の女" 第10話

違う青

報を読み終えると、沢は何も言わず倉庫の棚をけた。糸の束は帯で縛られ、同じ番号が印刷されている。問の指定にわせたはずだった。

「この番号なら違いないんです」と鉄夫が言った。

澄がつの束を窓際へ運んだ。片方は青のにが沈み、もう片方は赤みを帯びている。内灯では似ていたが、昼のでは違った。

「番号が同じでも、染めたが違うんでしょう」とキヌ。

「そんな細かいこと、糸が全部教えてくれるわけじゃない」と鉄夫。

「教えてくれなくても、見本と違うなら使えない」

フキは糸を見比べた。布を織るよりも、作るに材料を分けるが必だったのだ。

沢は話で問へ事を説した。返事はたかった。

「をわせるのが産の仕事でしょう。こちらは見本と違う布を買えません」

「織っているのはです。糸が違えば」

「それなら糸へ言ってください」

受話器が置かれた。沢は机を握ったままかなかった。

女たちのでは、すでに誰が損を負担するかで言い争いが起きていた。反を納めたには代が入らない。次の反も同じ糸を使って仕掛けてある。苗が仕事の控えを読みげると、園子は青ざめた。

「うちだけで以かけたのに」

「は戻らないよ」とミネ。

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「戻らないから、賃は払ってもらわないと」

鉄夫は言った。

「検品で格なら、もとの約束では買い取らないことになっています」

フキはを机へした。

「糸そのものが違うは、織りの負担にしないといてある」

「誰の糸が違ったかはまだ分からない」

その瞬、ヨシはちがった。

「分かるよ。糸束のを見比べればいい。私が昔から扱ってきた染め糸でも、納品に必ずそうしていた」

「なら、最初に気づいてくださいよ」と鉄夫が言った。

ヨシは言葉を失った。正しい。見本を見たのは自分だった。縞の幅ばかり気にして、糸のをつずつ見なかった。を取ったせいかもしれない。でも誰かのせいにするには、あまりにくのが自分を頼った。

「私も見逃した。ただ、見逃したことと、材料の責任を誰が持つかは別だよ」

「じゃあ、誰が払うんです」

「今から決める。織り始めるに決められなかったことを、今になって決めるんだ」

キヌは違いの糸をいくつかさな台へ巻き、と束の番号をいた。澄は糸へ、追加で糸を購入した伝票を送った。ヨシは女たちので、見落とした自分の責任を認めたが、誰かに全額をかぶせる話にはしなかった。

その夜、ヨシのでは久しぶりに苗が声を荒らげた。

「ばあちゃん、また自分が全部何とかしようとしているでしょう」

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「何とかするなんて言ってない」

「今朝、ミネさんに『私の見落としだ』って。あの言い方じゃ、皆がばあちゃんに払わせようとする」

「見落としたことは本当だ」

「本当でも、糸を染めたのはばあちゃんじゃない」

ヨシは鉢のを見つめた。昔なら、誰が何を言っても自分で全部背負い、最は働いて取り返せばよいとっただろう。今もその癖は抜けない。

「おは、どうしたらいいとう」

苗はしばらく黙り、それから机にを広げた。働いたの名とがいてある。

「私がこの表を作ったのは、誰のも消さないためです。賃を払うかどうかは、ここのたちが話しうことでしょう。でも、払われなかったことをなかったことにしたら、次も同じことになる」

ヨシはの端を押さえた。苗の字は正吉の字よりずっとっている。

向くの夜、澄と沢は言い争った。夫は「女たちが目で見れば分かったはずだ」と言い、妻は「見本と同じ糸を渡すと決めたのはこちらだ」と言った。鉄夫はの械の点検を済ませて帰ってくると、「今度は仕事がなくなるだけだ」と吐き捨てた。誰かに責任を渡せればし楽になるのだろう。けれど机ののの糸は、どちらか方のに変わることはない。澄は湯みを片づけたあと、誤った糸束がいつ倉庫へ入ったか、族で記憶をわせた。

入荷伝票は残っていたが、糸束の帯をして棚へ置いた者の記憶はあやふやだった。それ以を誰かの嘘と決めつけても、布は織り直せない。

翌、沢と澄は糸へ向き、染め期の違う束が混ざった経緯を確かめた。糸は交換を認めたものの、織ってしまった布の損失は買い取れないと言った。交渉の末、未使用糸の交換と、追加輸送の部負担だけが決まった。

「損は残る」と沢が言った。「これ以やるとが持たない」

フキは頷いた。そんな顔をするとは、以の彼女からは像できなかった。

「残った損を全部織る女に渡すなら、私たちはこの仕事をります」

「それじゃ注文がなくなる」

「だから緒に決めましょう」

数え直すと、違いの布は反、仕掛かりも含めればさらに反分の糸が無駄になる。既にかかった労働をにすれば、沢だけでは度に払えない額だった。

そこで澄は、反のうちの揃った反を別用途として問に見せる提案をした。定価では売れない。染めが違うとかしたで、売れればその代を返費の部へ充てる。残りはが々分けて払う。女たちが納得できなければ、仕事を続けず、そこまでの分を清算する。

ヨシは反を並べた。青い縞の違いは、見れば分かる。無理に同じだと言えば、今度は買ったが困る。

「それなら、使いのあるに売ってもらおう。傷物じゃない。が違うだけだ」

「値ががるわ」と園子。

「がるね。でも、最初に正直に伝えた値なら、私たちはそれで織ったことを恥ずかしいとわずに済む」

フキはヨシの横顔を見た。久しぶりに昔のヨシに似た顔だった。仕事の腕だけでなく、来がった布を見て値を決める職の顔だ。

問は反を別用途へ回すことを承したが、残りは引き取らなかった。沢は賃の半分を先払いし、残りは翌に払うといた。納得できないはしい糸を受けない。それを責めないと決めた。

反ではなく反だった注文は、さらに減り始めていた。それでも残った女たちは、初めて自分たちで損の形を確かめたで織ることを選んだ。

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