"昭和32年、町中が機を止めた日に織り続けた73歳の女" 第7話
別の値段
翌週、町の寄りいにい女が集まった。集会所は寒く、油ストーブを囲む席から先に埋まる。座れない者はで腕を組み、子を背負った者はとをたり入ったりしていた。
沢の帳面を見せてもらったことをフキが説した。何かは納得し、何かは目を吊りげた。
「帳面を見せたからって、言い値で納得するの?」
「問がく買うのはこっちの責任じゃない」
「でも止めたままじゃ、今の糸代も払えないわ」
ヨシは隅に座っていた。呼ばれたわけではない。フキが来てもいいと言ったので来た。声をすは、名を呼ばれてからにしようと決めていた。
沢が提案した百円を聞くと、ミネがちがった。
「うちは百円じゃやらない。せめて百円」
園子が言う。
「子を見ながら織るのに、若い者はその半分のしかけない。来だけなら、族にのあるところが得をする」
「じゃあどうするのよ」
女たちの声がなり始めた。フキは机を叩かなかった。ただ枚のを広げた。
「反いくらかだけじゃない。織の違い、仕げの、糸の悪い箇所を誰が直すか。ずっと同じ賃で数えてきたけれど、実際はによって違うのよ」
その言葉を聞いて、ヨシは子を引いた。
「うちのは古いから、ほかのよりがかかる。
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私は遅くなったことを隠して、夜に織ってきた。苗に糸巻きをさせても、私の来として受け取っていた」
誰かがさく息を吸った。ヨシは続けた。
「私の受けるも、苗の働いたを考えたらりていない」
園子が顔をげた。苗は集会所の入りにっていた。
「その話、ではしないのに」と苗が言った。った声ではなかった。「私がどれだけ働いているか、初めてので言いましたね」
ヨシは答えず、苗に席を空けた。
寄りいが引き、が暗くなり始めたころ、キヌが腰をさすりながらった。「皆、いったん茶でももう」。ストーブのの薬缶が鳴り、苗が湯を注いだ。誰かが持ってきた漬物の皿を回す。ミネのでは父親がを売る話がんでいること、園子の子は寒くなるとをしやすいこと、フキの夫が腰を痛めて畑を休んでいること。仕事が止まった々の話を、ヨシは初めて度に聞いた。自分だけが急いでへ戻った朝、ほかのの台所にもがあったのだとった。茶がめてから、彼女たちはまた賃のを挟んで座った。困り事を分けっても、数字は勝によくはならない。それでも相のをらずに決めるより、しはましだった。
議論の末、女たちはしい条件案を作った。通常の布は反百円、直しや縞わせのい特注は別の単価。
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糸の傷からじるやり直しは、織りの負担にしない。納品点の値段を方に当てはめない。受注のに条件をで確かめる。どれも当たりのようで、今まで誰も緒にいたことがなかった。
「百円でもがってる」とミネは言った。
「そうだよ」とフキ。「でも、私たち全員が今まで払ってきた見えないがある。それをまずなくしたい」
誰もすぐには拍しなかった。自分の懐へ届く額だけがまだりない。
その夜、沢は条件案を受け取ってを抱えた。妻の澄は計算尺をに、運賃を項ずつ確かめた。
「普通の裏だけなら百円は無理」と澄は言った。「でも縞物なら、検品のが減れば話は違う」
「縞物を誰が買う」と沢。
「問に聞かずに決めないで。向こうには縞わせの厄介な仕事をへ回したい事があるかもしれない」
夫は妻の顔を見た。以から澄は、注文をただ受けるだけでなく、選び方を変えようと言っていた。だが夫は、問へ値の相談をすることをひどく嫌がった。をげて保ってきた関係を壊すのが怖いのだ。
フキが各へ話を聞きにくと、机のの具から違いが見えてきた。気を持つは定した幅で数を織れるが、狭いへ古い踏みを据えるは、糸をかけるだけで半かかる。
族がいには巻き取りを伝うがあり、園子のように幼い子がいるではつの作業が何度も断される。全員に同じように反ずつ配れば公平だ、とフキは最初考えた。しかし公平に配ったはずの仕事が、あるの夜だけを奪うことにもなる。フキはずつ、「何反欲しいか」ではなく「何反なら約束どおり仕げられるか」と聞くことにした。答えにくそうなには、もう度訪ねた。で失った収入をく取り戻したい女たちには、厳しい問いだった。
翌朝、澄が福井の問へ話した。最初は断られたが、見本を持ってくるなら話を聞くという返事を取った。ただし縞物は糸を本違えば反物が使い物にならず、納期も厳しい。そこでヨシの名がた。
「坂井さんは古い織りで、縞わせは町番だそうですね」
澄の問いにヨシは苦笑した。
「昔はね。今は指が追いつかない」
「教えられませんか。がく女に」
ヨシは黙った。自分が織ることでしか役にてないとってきた。教えたら、もう自分の仕事がなくなるかもしれない。その怖さに気づいた。
「誰に教える」
「フキさんたちに頼むしかないでしょう」
ヨシは考え、夕方フキを訪ねた。
「縞物の見本を反だけ、みんなで織らないか」
フキはすぐに笑わなかった。
「それでヨシさんの反を埋めるつもり?」
「違う。これからの仕事を選ぶためだよ」
フキはしばらくヨシの元を見ていた。裂けた親指はまだ完全にはふさがっていない。
「まず条件をにして。それができたら、園子とミネに話してみる」
ヨシはその言葉を持って帰った。に着くと、信夫が宿題の余に細かな格子模様を描いていた。青との線が交互に続いている。
「ばあちゃん、これ、布みたいだろ」
ヨシは久しぶりに笑った。
「布なら、線がつずれたら模様が全部変わる」
「だから、初めに決めておくんだね」
子どもは何もらずに言った。ヨシはその言葉を、しばらく忘れなかった。