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"昭和32年、町中が機を止めた日に織り続けた73歳の女" 第6話

をげる所

フキのにかりがついていた。庭先では、をかぶった踏みの枠が布で覆われている。での声がした。女たちがの寄りいの相談をしているらしい。

ヨシは戸を叩いた。

「今、いいかい」

フキがてきた。ろには園子とミネがいた。誰もへどうぞとは言わない。

ヨシは包みを面へ置いた。指先に糸の跡がい込んでいる。

「反を受けた。反しか仕げられなかった。残りをまでにという。私ひとりでは無理だ」

フキは静かに聞いていた。

「代わりに織れってこと?」

「違う。これを持って帰って、沢へ返す。私が仕事をりる」

「じゃあ、もう織らないのね」

「今回の分は、途でやめる。に納めた分のは戻らないとう。損は私が引き受ける」

園子がを挟んだ。

「それで済むなら、最初から誰も困っていません」

ヨシはをげた。何ぶりか分からないほどく、膝が震えるまで。

「私がい値で受けたせいで、みんなが困った。ごめんなさい」

「謝ってほしかったわけじゃない」とミネが言った。「おばあちゃんが続けて織ってる、うちの父さんに、仕事を止めるなんてぜいたくだって言われたの。ので私だけが悪者になった」

ミネの声はっていたが、泣いてはいなかった。歳で族の活を支えることが、ヨシの歳と違わずいのだと、その声で分かった。

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フキは包みをいた。した縦糸が崩れないよう、何か所も紐で結んであった。

「これだけ丁寧にすがあったなら、もっとく止められたでしょうに」

「止め方が分からなかった」

フキはしだけ目を伏せた。

「私だって、いつまで止めていられるか分からないのよ。園子のところは賃が遅れた。ミネのところは父さんがを売れって言う。皆、私が先に折れるのを待っているみたいで」

「私は、みんなが止めたら沢が折れるとっていた」

「折れないなら、そのまま潰れて仕事がなくなる」

は黙った。くので犬が吠えた。

ヨシは呂敷を結び直した。

「付の千円を返せない。今ある反で千円になる。その分は渡せる。残りは私がと話す」

フキが顔をげた。

「その反、納めたの?」

「まだ。の朝持っていく」

「じゃあ、持っていかないで。ここへ置いて」

ヨシは構えた。

「何をするつもりだい」

「あなたの織った物で仕事を横取りされた気分になった。でも、反物そのものには罪がない。沢さんに度、私たちが見た欠点を伝えましょう」

フキは反物を持ちげ、端を灯りへ透かした。ヨシの目が悪くなったせいで、幅がほんのし揺れている。途で糸が継がれている箇所もあった。

「これを問へそのまま渡せば、きっと値をげられるわ。織元も損をして、また私たちの賃をげようとする」

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「直せるかい」

「か所は直せる。あとのか所は、仕てるときに切り落とすしかない」

「あんたに迷惑をかける」

「仕事が来たら織るのが、私たちの仕事でしょう」

フキはすぐに言い直した。

「ただし、無料ではやらない。検品も直しも、賃に入れてもらう。それをあなたも言ってほしい」

ヨシは頷いた。謝れば元の仲に戻れると考えていたのが恥ずかしかった。信用は言葉ではなく、誰のを誰が払うかで決まる。

その晩、ヨシはのを戻りながら、に置いてきた織のことを考えた。糸を切ってしまえば布は台無しになるとっていたが、丁寧にせば別ので織り直せることもある。の仕事も似ているなどとにすれば、フキに笑われるだろう。帰宅すると苗が湯を沸かしていた。ヨシは信夫のを返し、「学の先に、伝わせないと伝えておくれ」と言った。苗はその顔を見て、今夜どこへったのか聞かなかった。ただ、痛んだ指の包帯を巻き直した。傷へ布が触れるとヨシは顔をしかめたが、今度はさなかった。

翌朝、女たちは反物を持って沢のへった。交渉ではなく、納品物の状態を伝えに来たのである。沢は帳で反物を広げた。

「ここが浮いている」フキが指さした。「織り直せば今ににうわ。でもその直し代は払ってもらいます」

沢は驚いた。

「今は仕事を止めてるんじゃないですか」

「だからこそ、条件を決めずにをさないの」

澄が奥からてきて、布の端を確かめた。

「確かにこのままでは受け取れませんね」

「じゃあ戻します」とヨシが言った。

沢は顔をげた。

「戻されたら、のに積めない」

「なら、今はほかの話をするでしょう」

フキの言葉に、沢はに持った定規を机へ置いた。

「話すのはいい。でも、問からの値引きが戻らないかぎり、百円にはできません」

「じゃあ、何円ならできるんですか」と園子が聞いた。

沢は初めて帳のを女たちへ見せた。糸代、運搬代、問へ渡す額。細かな数字のどれも、ヨシには昔の相と比べられなかった。ただ賃だけを変えれば済む話ではないことは見えた。

「百。ぎりぎりです」と沢が言った。

フキはすぐには答えなかった。隣のミネがをいた。

「円がっただけじゃ、父さんは私が働くのを許さない」

園子も首を振る。

「うちは百円ないと暮らせない」

沢はのひらを見つめた。澄が夫に何か言いかけ、やめた。

ヨシはそこで、初めて自分の失敗を取り返す方法が、皆と同じ額を受け取ることではないかもしれないとった。ただし自分だけく織ればまた同じことになる。その違いをまだ言葉にできなかった。

帰り、信夫の担任・がのたもとで待っていた。苗から相談を受けたという。

「信夫君が、学を休んでを伝うと言っています。本は本気です」

ヨシはをげた。

「私が馬鹿な注文を受けたからです」

「仕事の事は分かりません。でも、あの子は今、族を助けることと勉することが、どちらかつだとい込んでいる。がそうわせたのなら、の側で直してあげてください」

ヨシは先がるまでにっていた。寒のに、織の音はなかった。

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