"昭和32年、町中が機を止めた日に織り続けた73歳の女" 第4話
織らない々
反目を仕げるころ、ヨシのの親指にさな亀裂ができた。えた杼を何度も握ったためだった。苗は布切れで指を巻いたが、ヨシはすぐした。触が鈍る。
「今はやめましょう」
「端が緩む」
「端より、指でしょう」
「この指で暮らしてきた」
苗は呆れたように息をつき、煮干しの入った皿を運んだ。信夫はまだ学を休んでいる。机に向かって字をいていると咳がるため、布団ので図帳をいていた。
昼過ぎ、園子の娘のキヨがヨシのを訪ねてきた。歳になったばかりの子は、濡れた靴のまま玄関へがりかけた。
「おばあちゃん、母ちゃんが借りた物を返してって」
差しされたのは、織の調子を見るためのさなのゲージだった。以、園子が借りていったのだ。
「返すのはこっちだろう」
「そうだっけ」
幼い子には誰の物か分からない。ヨシは箱から別の具をした。園子に渡しておくれと頼むと、キヨは首を振った。
「母ちゃんが、おばあちゃんの所にはくなって」
ヨシは返事ができなかった。自分に腹をてているだけだとっていたが、園子は子どもを使って距を置いていた。
夕方、ヨシは隣のキヌを訪ねた。歳のキヌはまで同じ織元から仕事を受けていたが、が悪くなってから布の検品だけを伝っている。
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「みんな、何を話している」
「賃のことだよ。あなたのことも」
「悪だろう」
「悪だけじゃない。あなたが反受けたのをって、あのも織る、このも織ると言いすんじゃないかって怖がってる」
ヨシは茶碗にをつけなかった。
「誰が話した」
「沢の息子が糸を運んだのを、誰かが見たんだよ」
「千円もらったことは」
キヌは黙った。ヨシはその目で分かった。
「先にもらった。信夫の医者代だ。隠していたのは悪かった」
「それを私に言ってもね」
「伝えておくれ」
「自分で言いなさい」
キヌの声はさいが、引き返せない言い方だった。
坂をる途、かつて緒に働いた女がち話をしていた。ヨシを見ると、話題が急に気に変わる。そんなことは初めてではない。若い頃にも、借の返済が遅れたのでは声が静かになった。ただ今回は、自分がそのだった。角を曲がると、織元からる糸を積んだが通り過ぎた。女たちが受けないため、糸は倉庫で所を取っている。沢にも困り事はあるだろう。しかしヨシは、皆が困れば結局誰かが折れるという沢の見込みに、自分がを貸していることをじていた。でち止まり、引き返そうかとった。けれど自分のへ閉じこもれば、ほかの女の顔がもっと見られなくなる。
翌朝、ヨシはフキのへった。
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女たちの集まりがかれていた。庭には使われていない糸巻き台が置かれ、机のにはいが広がっている。
「お邪魔するよ」
フキは子をすすめなかった。
「今は何ですか」
「反、受けた」
「ってます」
「先に千円もらった。信夫の診察がある」
ミネが唇を噛んだ。園子はを向いていた。
「私が止めると、仕事を全部ほかの町へ回すと言われた。受けても結局は同じ額なのに」
ヨシは言い訳を続けようとしたが、フキが遮った。
「ヨシさん、あなたが困っていることは私たちもっています。でもあなたが受けた反は、注文先へ『この町ではしい賃で仕事をするがある』って証拠になるの」
「証拠だなんて」
「実際にその額で織ったでしょう」
そこには反論できなかった。
「私は反を終えたら、もう受けない」
「反が終わったら、次も困るが受けるんです。そうやって軒ずつ減る」
ヨシは自分の握ったを見る。指の裂け目がくいていた。
「何をしたら許してもらえる」
フキはしばらく考えた。
「許すかどうかを私で決められない。まず、その反を誰の力で仕げるつもりなのか、考えてください」
へ戻ると、信夫が杼をに取っていた。ヨシは慌てて奪い返した。
「子どもが触るもんじゃない」
「ばあちゃんが痛そうだから、伝おうとった」
「学へ戻るのが仕事だ」
信夫は泣かなかった。ただ杼を返したを膝のへ置いた。その細い指を見て、ヨシは怖くなった。自分が織れば族を守れるとった。けれど、この仕事はもうのだけで収まるものではなくなっていた。