みかん小説
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"50人ドタキャンで廃業寸前、そこへ現れた意外な客" 第12話

仕込みの美学

真治が破滅の坂を転がり落ちていた同じ頃、町の『居酒 鉄』は、以来かつてない気と歓に包まれていた。

午。仕込みを終えた厨では、テツが際よく焼き台の炭を組み、鍋の加減を調していた。

「将! 今もから並んでますよ!」

アルバイトのミキが、目を輝かせながら簾をくぐって戻ってきた。

「よし、今も全力でくぞ。材の鮮度も、汁の引き具も、切妥協はなしだ」

テツはい調理の襟を正し、く息を吸い込んだ。

あの、プロレスの選たちが来し、SNSで絶賛されたことをきっかけに始まった『聖巡礼』のブームは、過性のものでは終わらなかった。訪れた客たちがを揃えて驚いたのは、話題性だけでなく、料理のつひとつに注ぎ込まれた圧倒な「本物の旨さ」だった。

毎朝に起きて岸へ通い、自らの目利きで選んだ鮮な魚。守り継がれた秘伝のタレに漬け込み、紀州備炭でじっくりと焼きげるジューシーな焼き鳥。そして、かけて余分な脂を抜き、信州噌と野菜でじっくり煮込んだ名物の牛もつ煮込み。

テツが会社を辞め、眠を削ってまで磨きげてきた料理への誠実なが、プロレスファンのみならず、隣のサラリーマンや族連れの舌を完全に掴んだのだ。

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「いらっしゃいませ!」

簾ががると同に、引き戸がき、待っていた客たちが笑顔で内へ崩れ込んできた。

「将! 今ももつ煮込み、盛りで!」

「ビール、こっちもつ頼むよ!」

「串焼き、タレ盛りわせで本!」

カウンターも、テーブル席も、がりの座敷も、瞬くに満席となった。注文の伝票が次々と通り、厨のフライパンが気よい属音を響かせる。ビールサーバーの泡が黄の液体のに美しく注がれ、乾杯の澄んだ音が内のあちこちで響き渡る。

「将、本当に旨いよ! この、武館会の帰りに寄ってから、すっかりこのの虜になっちゃってさ!」

カウンターに座った常連客が、もつ煮込みを頬張りながら満面の笑みを浮かべた。

「ありがとうございます! 親父から受け継いだですから、そう言っていただけると何より嬉しいです!」

テツは額の汗を拭いながら、の底からの笑顔を返した。

かつて廃業寸に追い込まれ、のドタキャンという絶望の底で涙を流したあの夜が、まるでい昔の悪のようにえた。

誠実に作った料理は、決してを裏切らない。相をって注いだと気は、必ず誰かのに届くのだという確信が、テツの胸をく満たしていた。

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