"50人ドタキャンで廃業寸前、そこへ現れた意外な客" 第2話
無の座敷とえ切った料理
「真治……お、自分が何を言っているのか分かっているのか……?」
テツの喉が痙攣し、受話器を握る指先がく鬱血していった。
「始分だぞ……! 分の刺も、煮込みも、焼き鳥も、全部仕込み終えてるんだ! この料理をどうしろって言うんだよ!」
『らねえよ、そんなの。おのの経営判断だろ? 客が来ないなら、所の野良猫にでもわせりゃいいじゃん』
真治のせせら笑う声が、鼓膜を容赦なく切り裂いた。
「ふざけるな! キャンセル料だ! 当の全面キャンセルなんだから、コース料の全額、万円を請求させてもらうぞ! 会社の経費で落とすって言ってたよな!」
『はあ? キャンセル料? お、何言ってんの?』
真治の声が、急激に酷なトゲを帯びた。
『おが先うちに持ってきたチラシ、今元にあるけどさ。利用規約のどこにも「当キャンセル料百パーセント」なんて言もいてねえぞ? 記載漏れはおのミスだろ。いてねえを払う義務なんて、法律のどこにもねえんだよ』
「な……っ!?」
テツの脳裏に、装の準備で眠休だった先の記憶がフラッシュバックした。舗の改装、メニューのき直し、父親の病院への見い。極度の疲労と混乱ので作成したチラシ。確かに、宴会の注事項やキャンセルポリシーの細部まで目を通す余裕がなく、印刷業者に渡してしまったかもしれない。
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『ほらな、ぐうの音もねえだろ? 記載漏れしてるおの落ち度だ。ま、配すんなって。おのが来まで奇跡に続いてたらさ、また埋めわせで予約入れてやるからよ! じゃあな、肉が焦げちまうから切るぞ!』
ブツン、ツーツー、ツーツー……。
方に通話が切断された。
「……おい、真治! 真治!!」
受話器に向かって叫んでも、返ってくるのはたい子音だけだった。
テツは力なく腕を垂らし、受話器をフックに戻した。の力が抜け、厨のにそのままへたり込む。
静まり返った内。カウンターのでは、氷のに盛られた鮮なヒラマサの刺が、誰の箸もつけられないまま乾き始めていた。鍋のもつ煮込みからは、まだ温かい湯気が揺らぎ、分の座布団が然と並ぶ座敷を虚しく照らしている。
「将……どうしたんですか?」
奥の洗いから、そうに顔をしたのはアルバイトの女子・ミキだった。
「あの……お客様たち、もうすぐいらっしゃいますよね? お通しの鉢、テーブルに並べても丈夫ですか?」
テツは唇を噛み締め、血が滲むほど固く拳を握りしめた。ミキの無垢な問いかけに、声が喉につかえててこない。
「……来ない」
「え?」
「全部、キャンセルだ。今夜の客は……も来ない」
「そんな……! 分ですよ!? 今からキャンセルなんて、この料理はどうするんですか!? 仕入れのおだって……!」
ミキが鳴のような声をげた。
万円。居酒『鉄』にとって、それは単なる数字ではなかった。来週曜に迫った材卸業者への決済代、舗の賃、そして入院の父親の差額ベッド代。それが今夜の売で消えり、元に残ったのは、の朝には廃棄処分にするしかない量のゴミのと、巨額の負債だけだった。
「倒産だ……」
テツのから、乾いた絶望が零れ落ちた。父親から引き継いだを、わずか半で潰してしまう。父親の笑顔も、常連客たちの憩いのも、すべて自分の甘さのせいで守れなかった。
男泣きに暮れるテツの背に、酷な現実だけがくのしかかっていた。