"時給1111円で高齢者5人を雇った結果" 第5話
390円の宣戦布告
「百円……」
俺はチラシを見たまま固まった。
うちの醤油ラーメンは百円。
ほぼ半額だ。
しかもハイパーラーメンは駅の型駐を備え、座席数もこちらの倍い。百円でされたら、価格だけを見ている客が向こうへ流れるのは当然だった。
「どうする?」
桃子さんが聞いた。
「うちも値げする?」
俺は瞬迷った。
だが青さんが即座に首を振った。
「やめとけ」
「ですよね」
「うちが百円にしたら、杯売るたびに苦しくなる。はキャンペーン期だけ赤字でも耐えられるが、わしらは耐えられん」
黒田さんも腕を組んだ。
「なら、いつも通りやればいい」
「でも客が半分になったら?」
「半分になったら、来てくれた半分を事にする」
あまりに単純な答えで、俺は笑ってしまった。
翌。
予通り、午からハイパーラーメンには蛇の列ができた。
うちはになっても半分ほどの席しか埋まらない。
久しぶりに見る景だった。
胃の奥がくなる。
「」
桜さんが言った。
「暇ならのチラシ、配ってくるわ」
「今から?」
「こういうにじっとしててもしょうがないだろ」
桃子さんも、のベンチを拭き始めた。
梅原さんは餃子の仕込み。
黒田さんは翌の炒飯用チャーシューを刻み、青さんは仕入れの数量を調する。
広告
誰も焦っていなかった。
俺だけが焦っていた。
午を過ぎたころ、向こうのから客が組流れてきた。
「すごい混んでて、分待ちだって」
その分、もう組。
さらに分には組。
ハイパーラーメンには定以の客が殺到しているらしい。
「でも向こうはですから。すぐ回りますよ」
俺はそう言った。
ところが過ぎ。
の女性客がへ入るなり言った。
「さん、子ども用の取り皿ある?」
「ありますよ」
「向こうで回頼んでもてこなくて。員さんも混乱で」
桃子さんがすぐに子ども用子をした。
夕方になると、SNSにハイパーラーメンの状況が投稿され始めた。
《注文したラーメンが分来ない》
《タブレット止まってる》
《会計も列》
《いけど員さん変そう》
原因は単純だった。
普段の倍以の客が集し、注文システムに負荷がかかったのだ。
端末が止すると、若いアルバイトたちはで注文を取ろうとした。しかしマニュアルで働いていたため、誰がどのテーブルを担当するか決められず、伝票のき方すら統されていなかった。
さらに客が増えても、自分の担当以を伝う者がほとんどいない。
午。
ハイパーラーメンの列から抜けた客が、次々とうちへ来た。
。
。
気づけばのまで列ができていた。
広告
「麺、あと!」
俺が叫ぶ。
「丈夫」
青さんが答えた。
「に追加を頼んだ。あと分で来る」
「餃子、追いつきます?」
「任せて」
梅原さんの指が止まらない。
「炒飯!」
「おう!」
黒田さんの華鍋から炎ががる。
桃子さんは客を席へ案内し、桜さんはと仕入れを往復する。
俺はただラーメンを作り続けた。
議だった。
客数だけなら、うちも過最にかった。
なのに混乱しない。
誰かが指示するに、空いたところへ別の誰かが入る。
閉、俺たちは子に座り込んだ。
「疲れた……」
俺が言うと、黒田さんが笑った。
「繁盛して疲れるなら贅沢だ」
その夜、売りげは過で最だった。
方、ハイパーラーメンでは塩田が本部の営業部から話を受けていた。
「客数は増えたのに、コミ評価ががっているそうですね」
「今回はシステム障害がありまして」
「それだけですか?」
塩田は答えられなかった。
話を切ったあと、彼はうちののSNSをいた。
そこには、が笑いながら働いている写真があった。
しばらく見つめたあと、塩田はい声で呟いた。
「まだだ。価格で駄目なら、別の方法がある」
そして彼が次に仕掛けたことは、単なる値げではなかった。
俺たちのそのものを潰しかねない、悪のあるだった。