"四年分の介護記録" 第3話
万の修羅
「……な、なんだこれは」
由美がテーブルの央へと滑らせてきたバインダーを覗き込んだ瞬、健の喉から掠れた声が漏れた。
バインダーの最初のページに綴じられていたのは、システムエンジニアだった由美らしい、狂いのない罫線で作成されたエクセルの印刷物だった。付、勘定科目、額、そして領収の通し番号が、几帳面なフォントで然と並んでいる。
『次介護収支報告(平成度〜)』
「あなたが毎、誇らしげに振り込んでくださっていた万円の、正確な使いです」
由美の声は、裁判官が判決理由を読みげるように淡々としていた。
健は線をらせた。
・用夜おむつ(特サイズ・消臭タイプ) 万千円 ・破壊されたリビング窓ガラス交換費用 万千円 ・夜徘徊の捜索協力および隣への謝罪菓子折り代 万千円 ・壁面・面特殊汚物清掃消毒費用 万円 ・精神科往診料・鎮静剤処方費用(自費診療分含む) 万千円 ・介護ベッド・バイタルセンサーレンタル料 万千円
ページをめくるたび、支の計欄の数字がねがっていく。
あるは万円。あるは万円。母の病状が急激に悪化したのには、単の支が万円を超えていた。
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「おい……これはどういうことだ! なんでこんなにがかかるんだ! おが何か無駄遣いをしているんじゃないのか!?」
健が鳴りつけると、由美はく、乾いた笑い声を漏らした。
「無駄遣い? ……健さん、あなたは認症のを、宅で体制で取るということがどういうことか、ミリでも像したことがありますか?」
由美の細い指が、バインダーの数字をトントンと叩いた。
「お義母さんの症状は、あなたが本をびった直から急速に悪化しました。昼夜逆転、、暴言、そして激しい暴力です。真夜にじゅうのコンセントをハサミで切り刻み、包丁を持って『棒がいる!』と私の寝のドアを叩き割ろうとする。便のコントロールを完全に失い、自分の排泄物を素で掴んで、リビングのカーテンや壁面に塗りたくる……。あの壁に染み付いた臭いは、販の洗剤では絶対に落ちません。業者を呼んで特殊清掃を頼むたびに、万単位のがんでいくのです」
「そ、そんなもの……! 施設に入れればよかっただろう! 俺だって施設を探せと言ったはずだ!」
「入れられるものなら、とうに入れていますよ!」
由美の声が、初めて鋭い刃のように張り詰めた。
「暴言と害為のある度の認症患者を、どこの公施設がすんなり受け入れてくれますか? 特養は百待ち、料老ホームは入居だけで千万円、々の費用が万円くかかります! そのおを、私がどこからせばよかったのですか!?」
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「だ、だから俺の座から……」
「あなたの個座の通帳も印鑑もキャッシュカードも、すべてあなたがシンガポールへ持ってったじゃありませんか!」
由美が机を掌で叩いた。その瞳の奥に、押し殺してきた獄の炎が燃え盛っていた。
「私に渡されたのは、活費用の座カード枚だけ! の限度額は万円、残はあなたが毎振り込む万ポッキリ! あなたが私の使い込みを警戒して、資産をすべて自分で抱え込んで逃げたせいで、私には民の施設にを支払う選択肢すら最初から奪われていたのですよ!」
健は息を呑んだ。
確かにそうだ。国、由美が勝に預をろして贅沢をしないよう、メインバンクの通帳と定期預の証はすべて、の貸庫に封印して鍵を自分が握っていたのだ。
「じゃあ……このりない分はどうしたんだ。おは専業主婦で、収入なんてなかったはずだろ」
「その答えは、次のページにあります」
由美がたく告げた。
健は震える指先で、バインダーをめくった。そこに閉じられていた枚のカラー写真を見た瞬、健の胃袋が激しく痙攣した。