"母の初盆を禁じた義父が、土地の名義を知った日" 第1話
「今すぐ、このをていけ」
「たかが初盆のためにを空けるなら、今すぐこのの籍を抜けてていけ」
義父・正雄のい声が、真の午の居に響いた。
テーブルのには、義母の子が淹れたばかりの緑茶が置かれていた。湯呑みから細い湯気ががり、窓のでは蝉がうるさいほど鳴いている。あまりにも常な景ので投げつけられた言葉だったせいか、私は瞬、自分が何を言われたのか理解できなかった。
来週末は、昨くなった母・文の初盆だった。
父をくにくした私を、母は女つで育ててくれた。さな裁を営み、朝から晩までミシンを踏み、には夜まで仕て物を続けて私を学へ通わせてくれた。その母を迎える、最初のお盆である。ひとり娘の私が実へ戻り、仏壇をえ、親戚を迎えるのは当然のことだとっていた。
「だけです。からまで。こちらの事は作り置きしておきますし、洗濯も――」
私が説すると、義母がで笑った。
「そういう問題じゃないの。男の嫁がお盆の期にを空けること自体がおかしいって言ってるのよ。こっちにも親戚が来るのよ? 誰が世話をするの?」
「でも、母にとって初めての――」
「んだより、きている族を優先するのが普通だろう」
義父が遮った。
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私はわず、ソファに座っている夫・浩司を見た。
浩司はテレビの野球継から目をさなかった。結婚して。義父母がどれだけ理尽なことを言っても、浩司はいつもこうだった。見えないふりをし、聞こえないふりをし、最には「親父たちも悪気はない」と私にを求める。
「浩司さん。お願い。たったなの」
私が名を呼ぶと、夫はようやくため息をつき、面倒そうにこちらを見た。
「親父の言う通りでいいんじゃないか」
「……え?」
「おはもう森田のなんだから。いつまで実、実って言ってるんだよ」
「母の初盆なのよ」
「だから何だよ。親父も母さんもきてるだろ。んだのために、きてる族に迷惑かけるのか?」
胸の奥で、何かが静かに切れた。
、私はこのの朝を作り、掃除をし、義父母の通院に付き添い、浩司のワイシャツにアイロンをかけてきた。娘の織が幼い頃には、義母から「男の子を産めない嫁」と何度も責められた。それでも庭を壊したくないで、私は笑って受け流してきた。
けれど、母の初盆に帰ることさえ許されない。
しかも夫は、私の顔を見ようともしない。
普通なら泣いていたのかもしれない。
けれど、そのの私は泣かなかった。
エプロンのポケットので、さな鍵を握った。
くなる週、母が病で私に渡した古い真鍮の鍵だった。
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『由美。もしあののたちが、あなたのまで殺すようなことをしたら、この鍵を使いなさい。あなたは自由になっていいのよ』
その言葉をいした瞬、午に夫の斎で見つけたものがに浮かんだ。
机の引きしの奥に隠されていたの封筒。
《事業用融資・事審査申込》
担保予定の欄には、今このが建っているの所が記載されていた。
そして、そのの所者は義父でも浩司でもない。
私だった。
、義父の事業が傾いた、母が老資を使って購入し、私の名義にしてくれただった。
なのに浩司たちは、私に何の相談もなく、そのを借の担保に入れようとしている。
さらに申込の端には、夫の字で女性の名がかれていた。
《美穂》
その名のを、私はまだらなかった。
ただつだけ分かっていた。
私が初盆でを空けるに、彼らは何かをするつもりだ。
「分かりました」
私は静かに言った。
義父が満そうに顎をげた。
「最初から素直にそう言えばいいんだ」
「いいえ」
私はエプロンをし、丁寧に畳んでテーブルの端に置いた。
「お義父さんがおっしゃった通りにします。このの籍を抜いて、ていきます」
その瞬、浩司がようやくテレビから顔をげた。
「お……何言ってるんだ?」
私はもう答えなかった。
そして階へがり、数から密かに用していたさなボストンバッグを取りした。
クローゼットの番奥には、さな耐庫がある。
母からもらった鍵でそれをけ、茶い封筒を取りした。
には、義父も夫もさえらない類が入っていた。
それをバッグに入れた、階から義父の鳴り声が聞こえた。
「勝にしろ! もすれば泣いて戻ってくる!」
私は返事をしなかった。
その、私が最初に向かったのは実ではなかった。
母がから相談していた弁護士、瀬誠の事務所だった。
そして私は、度もしたことのない続きを、そののうちに始めた。
まだ義父たちはらなかった。
自分たちが「ていけ」と追いした嫁が、あので最も放してはいけないだったことを。