みかん小説
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"雨宮停留所の黄色い傘" 第11話

留所の再会

信夫は、約束のより分く施設へ来た。歳い男性で、髪にはいものが混じっていた。彼は受付ので何度もを握り直し、相談員に「母は本当に、僕に会いたいと言ったんでしょうか」と確認した。

佐子さんは、窓際の子に座っていた。信夫が入ってくると、彼女は顔をげたが、すぐには名を呼ばなかった。彼女の記憶のにいる息子は、まだ歳のままだった。

「佐子さん。僕です」

信夫は子のに膝をついた。

「信夫です」

彼女は彼の頬に触れた。皺のある指が、頬からのあたりをゆっくりなぞる。

「になったのね」

「はい」

「ずいぶん遅かったね」

「すみません」

「謝るのは、私のほうよ」

彼女は、息子の肩にを置いた。信夫は、声をさずに泣いた。

最初の面会は、分ほどで終わった。佐子さんは途から、信夫をくなった夫と違えた。信夫はそのたびに「僕は信夫です」と言い直した。彼女は何度も忘れ、何度も彼の名を聞いた。

「僕は、母を置いて逃げたとっていました」

信夫は私に言った。

「をしたのに返事がなかった。父から、母はもう僕を息子とっていないと聞かされました。僕は、母が父を選んだんだとっていた」

「お母さんは、あなたが話をくれたこともらなかった」

「父が隠したんですね」

「はい」

信夫は、母のを握った。

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彼は父を責める言葉をにしなかった。ただ、母がらなかったを、つずつ話した。で働いたこと、結婚したこと、娘がまれたこと。佐子さんは話の途で眠り、目を覚ますたびに「信夫は帰ってきた?」と尋ねた。

「帰ってきましたよ」

そのたびに信夫は、同じ言葉を返した。

面会の帰り、信夫は宮留所へ寄りたいと言った。私は付き添い、留所のベンチに並んで座った。彼は、若いころに父から逃げた夜のことを話した。

「僕は、母に緒に来てほしかった。でも、母が父のそばに残るのを見て、母は僕より父を選んだとった。今なら、母には母の事があったと分かります。でも、子どもの僕には、置いていかれたようにしか見えなかった」

彼は、黄い傘の跡が残るベンチを見た。

「ここで、誰かに会った気がするんです。ので、僕の隣にっていた。でも、顔をいせない」

私は、彼の隣にの姿を見た。

は、信夫と同じ顔をしていた。

再会のあと、信夫は母に会うたび、自分が誰なのかを最初に伝えるようにした。佐子さんは何度も忘れたが、彼は苛たなかった。母が自分を忘れてしまうことを、いあいだ像していたという。

面会の帰り、彼は施設の庭で、母が折った青いを見つけた。内側には、いつものように「分」とある。

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信夫はそれをポケットにしまい、代わりにいハンカチを母のに渡した。

「これは、僕がさいころに母さんが縫ってくれたものです」

「そうだったかしら」

「はい」

「じゃあ、なくさないようにね」

彼は、母が覚えていなくても構わないと言った。佐子さんが自分に向けた優しさは、記憶が消えても、彼のに残っている。

面会の終わりに、佐子さんは信夫を見げた。

「あなた、今度はいつ来るの」

「来です」

「本当に?」

「はい。にもきます」

信夫は、そので次の面会をカレンダーにいた。佐子さんは、数字を確かめ、カレンダーの隅にさく「信夫」といた。彼女はすぐに忘れるかもしれない。それでも、いたことは残る。

施設の廊で、信夫は「母に何度も初対面のように会うのは、っていたより苦しい」と話した。私は、苦しいならその気持ちを母に伝えてもいいと答えた。彼は「今度、覚えているときに話します」と言った。

その言に、彼がこれからも会いに来るが表れていた。

面会の窓には、粒がいくつも流れていた。佐子さんは信夫に、昔の弁当の話を聞いた。彼は卵焼きが苦だったのに、母が作る甘いものだけはべたという。佐子さんは「覚えていたのね」と笑った。信夫は、母の顔を見ながら「忘れたことはありません」と答えた。

佐子さんは、その信夫が帰ったあと、私に「また来るって言った?」

と尋ねた。私は「来また来ます」と答えた。彼女はしたように笑い、つ目の湯のみを片づけなかった。記憶が途切れても、誰かが帰ってくる所をえる習慣は残っていた。

美咲はその、施設の玄関まで父を迎えに来た。

母と息子は、次に会うをで決めた。

帰り際、信夫は留所のベンチにを置き、「待たせてごめん」とさく言った。私は彼に、謝る相は母だけではないのかもしれないと伝えた。彼はうなずき、のころの自分にも、いつかをこうとうと話した。

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