"雨宮停留所の黄色い傘" 第9話
父が残した言葉
「戻すな」といたのは、信夫の父だった。姪は、斎に残っていた古い記と跡を比べて確認した。だが、彼が息子をへ戻すなと言ったのか、誰かに連れ戻すなと言ったのかは、いメモだけでは分からない。
夫の記には、信夫がいなくなったの数の記録があった。
『警察にはと伝えた。佐子には、あの子は自分からていったと言った。』
『駅から話があった。信夫は京へくと言った。戻すなと返した。』
『佐子に話せば、あの子を探しにていく。今はをれられない。』
夫は、息子を追い返したのではなく、母親をかさないために、話のことを隠したのかもしれない。彼は自分の体調が悪く、事を佐子さんに頼っていた。だが、それは彼の言い訳にはならない。息子のをりながら、母親に選択肢を与えなかったのだ。
記の最には、夫がくなる数にいた言葉があった。
『信夫からが来た。孫がまれたそうだ。佐子には言えなかった。あの子が帰ってきたら、私は何を言えばいい。』
を隠したまま、夫はくなった。彼がぬに何を望んでいたのか、もう本に聞くことはできない。
私は佐子さんに、夫の記を見せるか相談員と話した。彼女は、読みたいと言った。記を読み終えたあと、しばらく窓のを見ていた。
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「信夫は、話をくれたのね」
「はい」
「私はらなかった」
彼女はらなかった。泣きもしなかった。両で膝を押さえ、しばらく呼吸をえていた。
「私は、夫をにできないとっていた。でも、信夫をにしたのは私だったのかもしれない」
私は、彼女の言葉に答えを与えられなかった。が選んだの責任は、そのだけにあるのではない。けれど、選択を奪われたままきたがあることも、消えない。
佐子さんは、信夫のをもう通読んだ。そこには、彼の娘がまれたのことがいてあった。孫の写真を同封したと記されているが、封筒には写真がなかった。夫が取りして、どこかへしまったのかもしれない。
姪は、斎の壁に掛けられた額縁をした。裏にさな封筒が貼りついていた。には、女の子の写真が枚。写真の裏に、信夫の字で「母さんに見せてください」とかれている。
佐子さんは、写真を指でなぞった。
「この子が、私の孫なのね」
そのとき彼女は、写真の向こうにいる誰かへ話しかけた。
「信夫。今度は、帰ってきていいよ」
夫の記を読む、佐子さんは「私はあのをしていたの」と相談員に尋ねた。相談員は、本の気持ちを決めることはできないと答えた。佐子さんは、しばらく窓のを見たあと、「好きだった期もあった。
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でも、怖いとうもあった」と話した。
夫は病気をしてから、佐子さんにの回りのことを頼るようになった。彼女はをる会を何度も考えたが、夫を置いていく自分を責めた。信夫が迎えに来た夜、彼女は夫の腕の怪を見て、息子ではなく夫のそばに残った。選んだのか、選ばされたのか。その境目は、彼女自にも分からなかった。
記の最を読んだあと、彼女は「もう夫をかばわなくていいのね」と言った。私はうなずいた。彼女が抱えていた責任の部は、夫がき残した言葉によって、ようやく本へ返された。
夫の記の最には、佐子さんがらなかった病状も記されていた。彼は臓の病気がみ、くはきられないと医師から告げられていた。信夫がをた点で、夫は自分が妻に頼りきりになることを分かっていた。
夫は記に「佐子をにできない」といていた。信夫が母を連れていけば、夫はになる。だから息子の連絡を隠した。彼は、自分の恐怖を族を守ることだと考えていたのかもしれない。
佐子さんはそのページを読み、夫の写真を見た。
「私は、あのを置いていくのが怖かった。あのも、私がいなくなるのが怖かった。信夫は、そんなのにいたのね」
彼女は夫を許すとは言わなかった。ただ、夫が抱えていた恐れを、自分の責任として背負うのをやめた。
夫の記の別の頁には、佐子さんの字でかれた買い物の記録が挟まっていた。そこには「信夫の靴」とある。彼女は息子が帰ると信じて、サイズのう靴を買っていた。夫はそれをりながら、を隠し続けた。彼の恐れは、妻の希望を消す理由にはならなかった。
佐子さんは、夫の記を読んだあと、彼の写真を棚からろした。捨てるのではなく、封筒に入れて箱へしまうと言った。「忘れたいわけじゃない。でも、毎見なくていいの」。その決断を、私は彼女が自分の活を取り戻すさな歩だとった。
そのから、佐子さんは夫の写真を窓際に置かなくなった。
彼女は、夫の記憶と自分の記憶を分けて考え始めた。