"雨宮停留所の黄色い傘" 第3話
破られた運誌
役所の倉庫に残っていた町営バスの資料は、段ボール箱に分けられて保管されていた。私は塚に同してもらい、昭の運記録を探した。職員は「古い資料は部欠落している」と説したが、誌の分だけが自然にくなっていた。
表には運転の名が並び、塚の印がある。、曜。候は「」。通常の運表には、宮留所を通過する便が本もない。だが、誌のろに挟まった備記録には、両番号と刻がかれていた。
『庫発 1704分。旧宮方面へ臨回送。帰庫 2021分。』
「臨回送って、客を乗せない運転ですよね」
「そうです。誌に乗客の記録はありません」
「でも、信夫さんは乗ったと」
塚は、く黙ってからうなずいた。
「私はあの夜、回送に宮で彼を拾いました。彼は制のまま、傘も持たずにっていた。びしょ濡れで、靴の片方がありませんでした」
なぜ記録を消したのか。塚は、当、町営バスの運規則に違反してでもを運んだことをられたくなかったからだと話した。だが、それだけではない。信夫は乗、度も母の名をにしなかった。代わりに「には帰らない」と繰り返したという。
「駅まで送ったんですか」
「いいえ。駅へくに、彼は町れのでろしてくれと言った」
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「なぜに?」
「その先に、母親の姉がんでいた。信夫くんは、そこへくと言った」
佐子さんの姉は、以に町をている。今は連絡先も分からないと施設職員から聞いた。塚は、信夫がを渡っていくのを見届けたあと、運記録に戻らなかったと話した。
「それなら、なぜと分かるようにしなかったんですか」
「私は、翌朝、佐子さんのへきました。けれど、ご主に追い返された。『息子は自分でていった。誰にも言うな』と」
塚は、当の自分のさを隠さなかった。庭に踏み込む勇気がなかった。運転として規則違反をしたことを責められるのも怖かった。だから、黙ってしまった。その沈黙が、佐子さんにい待ちを残した。
私は資料のに、別の片を見つけた。学から町営バスへ送られた「徒の忘れ物」の記録だった。黄い傘。所者の欄には、信夫の名がある。返却先は空だった。
そのの裏に、鉛でさくかれた言葉があった。
『あのに渡すな。』
跡は塚のものではない。
塚は片を見つめ、唇を噛んだ。
「この字は、佐子さんのご主です」
彼は、信夫がをた理由をっていたのだろうか。
そして、黄い傘は誰のに渡らなかったのか。
倉庫をるに、私は記録の欠落が本当にページだけなのか調べた。
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のを確認すると、の翌週に、別の留所の欄にも修正跡があった。庫をた刻はずらされ、運転印がになっている。塚は、それも自分がした修正かもしれないと言った。だが、その跡はし違っていた。
資料の職員は、当のバス会社の会計帳簿が別の建物に残っていると教えてくれた。回送扱いなら運賃は記録されない。しかし、油と庫への戻り刻には痕跡が残るはずだ。
私は、信夫が乗ったバスがどこまでったのか確かめたいとった。塚の記憶だけに頼れば、彼が隠したい事実と、忘れてしまったことを区別できない。
その帰り、資料の窓に、濡れた制のが映った。彼は資料箱ではなく、壁に貼られた町の線図を指さしていた。指先は、の先のさな駅を示していた。
会計帳簿は、旧庫の移転資料のに残っていた。の燃料費は、通常運のよりい。距と照らすと、塚の帳にかれたキロと致した。彼が回送をらせたことは、記録からも確かめられた。
さらに、同じの庫当直表には、もうの運転の名があった。彼は当、病気で休んでいたはずだったが、印鑑が押されている。塚は「そのが代わりに運転したことにして、私をかばったのかもしれない」
と言った。
私は当直表の名を追ったが、本はすでにくなっていた。族に話を聞くと、彼の遺品に町営バスの古い鍵が残っていたという。鍵には、さな札が結びつけられていた。
『信夫くんの忘れ物を返す』
誰かが、彼の帰りを待っていたのは佐子さんだけではなかった。
塚は、信夫が乗ったバスの座席番号を覚えていると言った。部座席の側、窓際。そこはが漏れて、いつもシートが濡れていた。信夫はその席を選び、窓に額をつけていた。塚はその夜のことをいすと、今もワイパーの音を聞くという。
忘れ物箱の鍵は、塚が同僚から預かったまま返せずにいたものだった。箱の底には、古い定期券と、濡れて乾いたいハンカチがあった。ハンカチの端には「S」の刺繍。塚は、それが信夫の持ち物ではなく、佐子さんが縫ったものだと覚えていた。
塚は、帳のその頁を破らず、初めて役所へ提した。
記録に残った数字は、誰かの記憶を支えるさな証言になった。