"昭和三十九年、父の止めた記事が暴いた新聞記者親子の真実" 第10話
ガラス扉の向こう、夕が迫る部で、誠が、スタンドライトのかりを消して机の引きしを理していた。
達也は静かにドアをノックし、に入った。
「父さん」
誠はを止め、顔をげた。く刻まれた目尻の皺には、激の数を乗り切った男の、隠しきれない疲労が滲んでいた。
「……帝都物産が全面伏しました。絹紡は倒産を免れ、女たちの雇用も守られました」
「そうか」誠はく答え、机のの類をブリーフケースに収めた。
「父さん、僕に教えてくれたんですね」達也は机のに歩み寄り、をげた。「事実の向こう側にいるを見ろと。もし父さんがあの夜、僕の最初の原稿を止めてくれなかったら、僕は今頃、自分のいた記事でを潰し、初さんたちのを奪った殺しになっていました」
誠は子からちがり、窓のを見つめた。
座のには、京オリンピックの幕を告げる万国旗が、夕にはためいていた。
「達也。俺はな、おに教えたんじゃない」
誠のい声が、静かな部に染み渡った。
「俺自のの過ちを、おの姿を通して、もう度裁いていただけだ」
誠は内ポケットから、あの黄ばんだ切り抜き帳を取りした。昭、川の米穀主をに追いやった、自らの若きの記事。
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「俺はな、あの主が運でんだあのから、度たりとも胸を張って『自分は記者だ』とえたことはなかった。どんなスクープをいても、どんな賞をもらっても、夜になるとあの男のたい体が枕にった」
誠は切り抜き帳を、机のに静かに置いた。
「おが昨夜いた記事を読んで、俺はったよ。……ああ、俺のの暗は、こののためにあったのかもしれないとな」
誠は達也の肩にを置いた。その掌は、驚くほど温かく、そして力かった。
「おは、俺を超えたよ、達也」
「父さん……」
「だがな、忘れるな。聞記者というき物は、どれほど正しい記事をこうとも、の業のにで踏み込んで飯をう因果な商売だ。その罪さを忘れた瞬、記者のペンはただの凶器に変わる。……その痛みだけは、ぬまで放すな」
誠はブリーフケースをに取り、部のドアへと向かった。
「父さん、どこへくんですか」
誠は振り返り、微かに元を緩めた。
「定を待たずに、今付で退職届をしてきた。これからは、おたちの代だ」
誠の背が、夕に包まれた廊の向こうへと消えていった。その取りは、のい甲冑を脱ぎ捨てた男の、静かで誇りいり際だった。
昭。
つない抜けるようなれの、国競技の空には、航空自隊のブルーインパルスが描いた見事な輪のマークがく浮かびがっていた。
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万を超える観衆の歓声と、鳴り響くファンファーレ。の国が焦からちがり、世界ので平の祭典をいたその瞬、本が誇りとびに打ち震えていた。
達也は、競技のメインスタンド記者席の片隅で、双鏡を構えていた。
トラックを入してくる各国の選団。その先をく本選団の胸元には、鮮やかなのブレザーが輝いていた。
達也の線は、選たちの笑顔ではなく、そのブレザーの裾、微かに覗く沢のある純の裏へと注がれていた。
絹紡の織りが、昼夜を徹して織りげた布。
初が、神崎社が、女たちが、埃と汗にまみれながら、誇りを持って紡ぎした枚の織物。
競技の巨な歓声のにいながら、達也のには、墨田ののあのガシャリ、ガシャリという力い械の音が、確かになって聞こえていた。
世界はこの華やかなだけを記憶するだろう。
だが、自分はそのの底にある、無名の々の流した血と汗の物語をっている。そしてそれを、面という歴史の記録のに刻み込んだ。
記者席の机のには、聞のオリンピック幕記号が置かれていた。
面を飾る巨な写真と祝祭の見しの隣、社会面の片隅に、達也がいたさな囲み記事が掲載されていた。
『ユニフォームを支えた町——墨田の繊維、誇りの納品を終えて』