"昭和三十九年、父の止めた記事が暴いた新聞記者親子の真実" 第5話
通された社は、粗末なスチール机と、繊維屑の詰まった段ボール箱が積みげられただけの狭い部だった。壁には、オリンピック京会組織委員会からの請け納入予定表が貼られていた。
神崎は机の引きしから、通の通告を取りして達也のに置いた。
元請けの総繊維商社からの、方な単価切りげと納期縮の通だった。
「うちのような零細請けはな、親会社から言われた納期の半分で、分のの単価で納めることを呑まなければ、翌からすべての発注を切られるんだ」
神崎の節くれだった指が、予定表を叩いた。
「オリンピックの選団が着る公式ブレザーの裏だ。名誉ある仕事だと世は騒ぐが、うちに入ってくる賃は、布メートルにつき僅か円だ。械を回し続けなければ、材料代すら払えない。倒産すれば、の械はすべて借の担保に持ってかれ、百の従業員は即座にに迷う」
「だからといって、未成者に労働をいて、病を放置していい理由にはなりません!」
「分かっている!」神崎が声を荒らげた。その瞳に涙がった。「分かっているさ……! 娘たちには、本当に申し訳ないとっている。毎晩、寮の神棚にをわせて詫びている。だが、今ここで操業を止めたら、来の形が落ちないんだ。
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渡りをせば、あの子たちのこれまでの料も、故郷への仕送りも、すべて屑になるんだよ!」
神崎は両を机につき、くを垂れた。
「頼む、記事にするのを、あと週待ってくれ。オリンピックの納品が終われば、元請けから決済がりる。そうすれば設備を直せる。換気扇もしくつけられるんだ。今、記事がたら……うちは終わりだ。あの子たちの故郷の親たちも、みんな破滅するんだ……」
達也は言葉を失った。
目のにいたのは、怪物の姿をした悪ではなかった。度経済成という巨な歯に組み込まれ、押し潰されそうになりながら、必に百の命を抱えて喘いでいる、もうの犠牲者の姿だった。
達也は事務所をた。夜の墨田のには、オリンピックのテーマソングを陽気に鳴らす酒と、突貫事を続けるダンプカーの轟音が響き渡っていた。
世界が本の繁栄を称え、京が未来都へとまれ変わろうとしている。
その眩いの真で、親会社の条理な買い叩きと、請けの鳴と、故郷の族を支えるために喀血しながら糸を紡ぐ女たちの血の滴りが、すべて「美しい本の奇跡」という巨な嘘のに塗り込められようとしていた。
達也はポケットのの原稿用を握りしめた。
自分がこうとしていた記事は、体何だったのか。
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絹紡というさな末端の蟻を踏み潰し、社会の巨悪を見逃したまま、「者を救った」と自己満に浸るための、っぺらな正義の告発ではなかったのか。
父の言葉が、胸のでく、く、鐘のように鳴り響いていた。
『おは俺より真面目だから怖いんだ。正しい記事ほど、を残酷に殺すものはない』
達也はりした。父の元へ。もう度、あのと話さなければならなかった。
夜、座の聞社京支局。
最終版の締め切りを控え、編集局の気は最潮に達していた。原稿を運ぶボーイがり回り、閲の赤鉛が宙をっている。
達也は息を切らしながら論説委員の扉をけた。
内には、誠が、スタンドライトのかりので古い原稿用に向かっていた。鏡をした誠は、達也の乱れた息遣いと、のついた靴に目を留めた。
「……取材してきたのか」
「はい」
達也は誠の机のにち、ポケットからぐしゃぐしゃになった取材ノートを取りした。
「員の女の子に会いました。社にも会いました」
達也は、初の涙を、神崎社の叫びを、そして繊維商社の容赦ない買い叩きの実態を、震える声で父に報告した。父は黙って煙を燻らせながら、息子の言葉を言も遮らずに聞き続けた。
「父さんの言う通りでした。
僕がいた最初の記事がれば、絹紡は倒産し、初さんたちは職を失い、弟や妹たちは学へ通えなくなっていた。