"昭和三十九年、父の止めた記事が暴いた新聞記者親子の真実" 第4話
青森の半島から、昨の、集団就職列で京してきたのだという。
「本当に、も働かされているのですか? 倒れた員がいるというのは事実ですか?」
達也が矢継ぎに問い詰める。初は俯き、垢の染み込んだ指先を固く擦りわせながら、ぽつりぽつりと話し始めた。
「……はい。オリンピック用のユニフォームのの納期が迫っているからって、先から夜勤が交代になりました。糸埃がすごくて、みんな咳が止まらなくなって……先週も、同じ部のハツ代ちゃんが喀血して倒れました。でも、会社は病院へ連れてってくれなくて、寮の押入れみたいな部に寝かせたまま……」
達也の帳に、りのインクがる。
「やっぱり、会社の発表は嘘だった。初さん、あなたも辞めたいとっているんでしょう? 会社を訴えるべきです。僕が記事にして、このの実態を世にらせます」
しかし、達也の言葉を聞いた初は、顔をげるどころか、さらにくを縮こまらせた。
「……記事になったら、この、潰れますか?」
「え?」
初のきな瞳から、涙が零れ落ちた。
「が潰れたら……うちは、どうなるんですか」
「どうなるって……こんな劣悪な環境から抜けして、もっとまともな職を探せばいい」
「京に親戚もいない田舎者が、どこへけるっていうんですか!」
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初の掠れた叫びが、運のに消えていった。
「私は……畑を台で全部流された青森の百姓の娘です。弟がと、妹がいます。毎、私が仕送りする千円で、みんな米を買って、弟は学へ通えているんです。が潰れたら、私は田舎へ帰るしかありません。帰っても、べるものなんて何もないんです!」
達也の万が、ので止まった。
「ハツ代ちゃんだって……体を壊して悔しいけど、会社をんでなんかいないって言っていました。会社がなくなったら、故郷の親が借取りに追われるからって……。私たちは、ただ、もうし休ませてほしいだけです。窓をけて、埃を吸わないようにしてほしいだけなんです。会社を壊してほしいなんて、誰も頼んでいません!」
初は落ちたゴミ袋を抱え直すと、逃げるようにの通用へとっていった。
鉄のい扉が閉ざされる音だけが、に残された。
達也は、帳をいたままち尽くしていた。
『毎、私が仕送りする千円で、みんな米を買っている』
その言葉が、の奥で激しく反響していた。千円。奇しくも、父が送り続けていたあの額と、ほぼ同じだった。
自分は何をしようとしていたのか。
悪辣な経営者を糾弾し、正義を振りかざしてを世の晒し者にする。その結果、この女たちが帰るべき故郷の細い命綱まで、自分のいた記事が断ち切ってしまうのではないか。
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父の言葉が、たいのように脳裏を満たしていった。
『おは面ので正義の方を演じ、を裁いて満するつもりか』
夕暮れの運が、赤黒い血のようなに染まっていた。達也は帳をポケットにねじ込み、い取りで歩きした。向かうべき所は、もうつあった。
夜、絹紡の事務所のかりはまだ消えていなかった。
正面玄関は閉ざされていたが、達也は勝に回り、硝子戸を叩いた。から現れたのは、総務部ではなく、髪交じりの痩せこけた初老の男だった。油の染みた作業エプロンをつけたその男こそが、達也がこれまで「隠れしている」と決めつけていた絹紡の代表取締役社、神崎信吉だった。
「聞記者さんか。……もう帰ってくれ。取材なら総務を通してくれと言ったはずだ」
神崎は力なく首を振った。その顔は、労働者を搾取して私腹を肥やす酷な資本のそれとは程く、疲労と労で今にも倒れそうな老員の顔だった。
「社。記事にするに、あなた自の言葉を聞きたいんです」
達也はドアの隙に靴を差し入れた。
「女たちが倒れているのをりながら、なぜ操業を止めないのですか。なぜ、彼女たちを過酷な労働に縛り付けるのですか」
神崎は達也の目をじっと見つめ、やがてく、い溜息をついた。
「……がれ。茶もせんがな」