"昭和三十九年、父の止めた記事が暴いた新聞記者親子の真実" 第2話
「事実は確認しています。退職したの証言だけじゃない、寮母の証言も、診療所のカルテの写しもに入れました。絹紡の経営陣が労働者を当に搾取し、隠蔽作を図っているのはです。父さんがいつも言っていたじゃないですか! い者の方をするのが記者の使命だと!」
誠は息をく吐き、達也の胸ぐらを掴むかのように歩踏みした。
「おは、このの社に会ったのか」
「総務部には当てました。『事実無根であり、法段も辞さない』と恫されましたが、すべて取材メモに記録してあります。社は隠れです」
「で今も働いている、残りの百の女たちの声を聞いたのか」
「……それは」
達也は言葉を詰まらせた。
「これから聞くつもりでした。ですが、まずはこの正を公にして、会社に労働環境を改善させることが先決です。これ以、被害者を増やすわけにはいかない」
「おのいたこの記事がれば、絹紡は倒産する」
誠の徹な言葉が、達也の胸を突き刺した。
「取引先はを引き、は融資を止める。オリンピックをに、イメージの悪化を恐れる元請けのアパレルは即座に契約を切るだろう。……その、残された百の女たちがどこへくか、おは考えたことがあるのか」
「それは……会社の責任です! 経営者が招いた結果だ!」
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「おは面ので正義の方を演じ、を裁いて満するつもりか」
誠は原稿用を達也の胸元に押し戻した。
「この記事はくな。記者を辞める覚悟がないなら、なおさらだ」
誠は背を向け、論説へと戻っていった。
達也は握りしめた原稿用の端がくしゃりと破れるのをじながら、そのにち尽くしていた。りと、裏切られたような激しい屈辱が全を駆け巡っていた。
会社を守るのか。それとも、企業との軋轢を恐れてったのか。
かつて権力に抗い続けた伝説の父は、老いて保にるただの老害に成りがってしまったのか。
その夜、達也は自宅へ帰らなかった。
支局の宿直に泊まり込み、デスクの梶に掛けった。梶は誠の輩にあたる男だったが、社の板記者である誠の向を無することはできなかった。
「佐伯先がああ言うなら、何か裏があるのかもしれん。だが、達也、おの記事はい。捨てがたいのも事実だ。もうだけ猶予をやる。会社側の反論も含めて、もう度洗え」
達也は夜を徹して資料を読み漁った。
なぜ父は、ここまで頑なにこの記事を止めるのか。父の言葉の裏にある「何か」を突き止めなければ、自分は歩もへめない。
午、編集局の庫に入った達也は、父がかつて執した膨な過記事の縮刷版を繰り始めた。
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誠が方支局から京本社へ引き抜かれた昭代半ば、父が何をき、何と戦ってきたのか。
埃まみれの面を何冊もめくるうち、達也の指がつのさな記事ので止まった。
昭付、都内版の面記事。
『米横流しの疑い 川の米穀主を追及 配偽装、悪質な利得か』
署名記事ではなかったが、切り抜き帳の欄に、父の几帳面な万の文字で『取材・執:佐伯誠』と記されていた。
その記事は、戦の配制度がまだ完全に能していなかった頃、配米を正に横流しして暴利を貪っていたとされる川の米穀を、記者の潜入取材によってのに晒したスクープだった。
記事が掲載された、警察がき、米穀は宅捜索を受けた。記事の調子は、現の達也の原稿と同じように、鋭利で容赦のない正義の告発に満ちていた。
しかし、その切り抜き帳の隣に、もう枚、黄ばんだ方版の追報記事が貼り付けられていた。
付は、最初の記事からわずか週。
『川の米穀主、運で 族が方に は倒産』
達也の背筋に、氷が流れた。
翌朝、達也は社してきた父を待ち伏せ、朝のへ呼びした。
京タワーがの澄んだ空に向かって赤の巨躯をそびえたせている。
をる都のベルの音が、に乗って微かに届いていた。