"「お前には継がせない」と言った父が、最後まで守り続けたもの" 第14話
撤退のの夕暮れ、郎はしく購入した台の軽輪トラックのにっていた。 ドアには、しくデザインされたロゴマークが誇らしげに輝いていた。
【株式会社 佐々ストア の御用聞き・まごころ特急便】
染めの掛けをキリリと締めた郎の横には、専務として帳簿を完璧に管理する弟・健の、自信に満ちた笑顔があった。
そこへ、子を押された源が、ゆっくりとづいてきた。 歳を迎え、すっかり好々爺となった源の膝のには、美しく桐箱に納められた、分い福帳が載せられていた。
の奥の帳。 夕飯を控え、ひっきりなしに鳴る話の音と、若配達員たちの元気な掛け声が、夕暮れの内によく反響していた。
源は子からちがり、すりに掴まりながら、ゆっくりと帳の主座の畳へと腰をろした。 ちゃぶ台のには、いほうじ茶がつ並んでいる。
「郎、座りなさい」 源が静かに招きをした。
郎は掛けをし、父の正面に端座した。 歳になった郎の顔つきには、数々の修羅をくぐり抜けてきたの商の格と、い慈が刻まれていた。
源は桐箱の蓋をけ、から冊の古蒼然とした綴じの帳面を取りした。 佐々商が創業した正の初めから、代々の主が売と仕入れ、そしての々の信用を記録し続けてきた【福帳】だった。
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源はを執り、墨をすった。 そして、最終ページの余に、震えるで、力くこうき入れた。
【昭吉 代目主 佐々郎ニ全権ヲ譲渡ス】
トス……と、朱肉のついた実印が、その文字の横に鮮やかに押された。
源は帳面を閉じ、両で恭しく持ちげると、郎のへと差しした。 その髪混じりのが、息子に向かって、々とげられた。
「……郎。今まで、このを……儂の命を、繋いでくれてありがとう」 源の瞳から、粒の涙がポロポロと帳面のに落ちた。
「、おを追いした……儂は、このを畳むつもりだった。代の波には勝てん、さなは消える運命だと、諦めていたんだ。……だが、おは逃げなかった。しい代のを京から連れてきて、儂が守りたかったものを、何倍ものきさにして育て直してくれた」
源は顔をげ、くしゃくしゃになった笑顔を息子に向けた。
「……やっと、おのになったな」
その言葉を聞いた瞬、郎の目からも、堰き止められていたい涙が溢れした。
郎は福帳を両でしっかりと受け取った。 ずっしりとした、半世紀以のみ。 そこには、正、昭の激をき抜き、飢餓と戦争を乗り越え、巨な代の津波に抗い続けた、名もなき々の汗と涙が染み込んでいた。
「違うよ、父さん」
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郎は涙を拭い、首を横に振った。
「これは、俺のじゃない。……父さんが、母さんと緒に、を啜って作りげてくれた、のみんなのだ」
郎は福帳を胸に抱きしめ、父の目を真っ直ぐに見据えた。 「俺はただ……父さんが命懸けで灯してくれたこのを、消さないように、次の代へ渡しているだけだよ」
源は目を押さえ、何度も、何度も頷いた。
表の通りから、「郎さん、の朝の配達、頼むよ!」と、元気な所の声が響いてきた。 「あいよ! 毎度ありがとうございます!」 健のるい返声が、夕暮れのにこだまする。
の入りからは、炊きたてのご飯の匂いと、噌汁のばしい湯気が漂ってきた。 引き戸の向こうには、灯が灯り始めた旭町商の、どこまでも温かく、力い暮らしの灯が、果てしなく連なっていた。
代がどれほど移り変わろうと、がをいやり、汗を流して誠実にきる限り、商いの灯が消えることは決してない。
郎はちがり、染めの掛けを再び誇らしげに締め直すと、に満ちた先へと、力い取りで駆けしていった。