"「お前には継がせない」と言った父が、最後まで守り続けたもの" 第10話
。 それこそが、資本力では決して買えない、さなだけの絶対な参入障壁だった。
夕暮れ、空になった箱を積んでへ戻った郎の顔は、汗と埃まみれだったが、その瞳は確かな応えに輝いていた。 帳には、健が集計した売りげノートが置かれていた。 配達だけで、普段の分の売りげを叩きしていたのだ。
帳の奥の暗がりから、杖をついた源が、無言のまま郎のだらけの袋を見つめていた。
佐々商の「御用聞き配達」が軌に乗り始め、旭町商にしずつの温もりが戻り始めた矢先、恐れていた事態が起きた。
初旬の曜の朝。 聞の折り込みチラシに、目を疑うような見しが躍った。
【まるよし百貨・歳末特別謝セール!】 【砂糖袋・円! 醤油瓶・円! 用油・半額!】 【期、全館原価割れ奉仕! 赤字覚悟の総力戦!】
「ひ、酷すぎる……!」 商の乾物の親父が、チラシを握りしめて佐々商のに駆け込んできた。 続いて、百の主も、酒の若旦も、青ざめた顔で崩れ込んできた。
「郎君、これを見ろよ! 砂糖円なんて、うちの仕入れ値の分の以だぞ!」 「まるよしの野郎、うちの仕入れ組を潰す気だ! あんな値段で売られたら、商の客が全員あっちへ取られちまう!」
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商の主たちが々に叫び、はパニックに包まれた。 巨資本による、骨な「焦作戦(ダンピング)」だった。 体力のない零細商の息の根を止めるため、に巨額の赤字を垂れ流して客を独占し、ライバルが全滅したに悠々と値げをする――資本が方都を制圧するの、酷な常套段だった。
「兄さん……どうしよう」 健が震えるでチラシを見つめる。 「うちも……うちも損を覚悟で、同じ値段までげなきゃ、誰も来てくれなくなるよ……!」
「ダメだ!」 郎のが、を震わせた。
「同じ俵に乗ったら、向こうのう壺だ! まるよしの背には京の資本がある。向こうは半赤字を垂れ流しても屁でもないが、うちはヶ同じ売りをやったら全員倒産だ!」
「じゃあ、どうすんだよ郎君!」百の主がってかかる。「指をくわえて客が取られるのを見てろってのか!?」
郎は腕を組み、徹に考を巡らせた。 京の卸商社代、同じようにの売り攻勢に晒され、パニックになって価格競争に巻き込まれ、自滅していった舗を何百軒と見てきた。
「敵の狙いは、客の『目玉』を奪うことだ」 郎は顔をげ、集まった主たちを力い差しで見渡した。 「砂糖円に群がる客は、さが目当ての見客だ。そんな客を追いかけても消耗するだけだ。
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……俺たちが守るべきは、さじゃなく【暮らしの】だ」
「暮らしの……?」
「そうだ」郎は帳を広げた。 「まるよしのチラシをよく見てみろ。『お様袋限り』『販売のみ』『理券配布は朝』……寒い、何も並ばなきゃ買えないんだ。がり始めたこの季節に、寄りや子連れの母親が駅までって、い醤油樽や砂糖を抱えて帰ってこられるとうか?」
郎は敵な笑みを浮かべた。 「向こうが『さ』で攻めてくるなら、こっちは徹底な【(てま)の肩代わり】で迎え撃つ。……健、黒話の受話器を磨いておけ。これから、このに話が鳴り止まない仕組みを作るぞ!」
「もしもし、佐々商です! あ、の崎さんですね! はい、お醤油とお砂糖ですね。……え? 百のネギと、魚の塩鮭も緒に欲しい? 丈夫ですよ、全部うちが預かって、分にお届けします!」
チリン、チリン、チリリリーン――!
佐々商の帳にしく設置された黒話が、けたたましく鳴り響いていた。 健が受話器をに挟みながら、伝票に猛烈な勢いで鉛をらせている。
郎が仕掛けたのは、商全体を巻き込んだ本最初期の【ワンストップ戸別配送ネットワーク】だった。
客は、佐々商に話を本かけるだけでいい。 佐々商の用品だけでなく、「旭町仕入れ組」
に加盟する魚の刺も、百の根も、肉の挽肉も、豆腐の油揚げも、すべて佐々商が注文を括で取りまとめ、自転の荷台にまとめて積んで、客の玄関先まで即配達するのだ。