"「お前には継がせない」と言った父が、最後まで守り続けたもの" 第3話
そして何より――客たちが自らに取った買い物かごに商品を次々と放り込み、レジスターのに並んで現で精算していく「セルフサービス方式」。
「いらっしゃいませ!」 清潔なを着た員たちが、るい声でテキパキとレジを打っていく。 そこには、昔ながらの商に漂う「」や「お喋り」の入り込む隙などなかった。 圧倒な品揃え、信じられないほどの値、そして徹底に効率化された代なシステム。
(……何だ、これは)
郎の背筋に、たい汗が流れ落ちた。 旭町商の暗い先で、父が帳面をめくり、で米を量り、客の愚痴を聞きながら銭を受け取っていたあの景が、まるで世紀の遺物のように褪せて見えた。
「量に仕入れて、利売で気に捌く。現決済だから焦げ付きもない。……佐々、これからはこういうが本を埋め尽くすぞ。昔ながらのさな商のなんて、ひとたまりもなく消しぶさ」 運転が何気なく呟いた言葉が、郎の蓋骨を激しく殴りつけた。
父の顔が、脳裏をよぎった。 あの頑固で、古臭い帳簿にしがみつき、「おには別のがある」と言い放って自分を追いした父。
(親父……おは、この津波をっていたのか? それとも、何もらずに沈んでいく舟にしがみついているのか……?)
郎はボストンバッグを握りしめ、青のスーパーの眩いネオンを、い入るように見つめ続けた。
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「商事」の倉庫で角を現した郎は、京から目の昭、歳で営業部へと抜擢された。
郎の武器は、現で培った「売の皮膚覚」と、京で目の当たりにした「代流通の識」だった。 度経済成の波に乗り、京郊の団周辺には、次々と型のスーパーマーケットや代な料品が誕していた。 郎はそれらの興舗へ参し、社の営業マンがいつかないような画期な提案を次々と繰りした。
「、缶詰を棚に並べるだけじゃ売れませんよ。このアメリカ製の即席ラーメンと並べて、『共働き庭の簡単夕セット』として積みにするんです。値札もきく、赤インクできましょう」 「なるほど……佐々さんの言う通りにしたら、週の倍も売れたよ!」
郎は、商品の「見せ方(ディスプレイ)」や「組みわせ販売」、そして折込チラシを活用した「特売セール」の法を独学で貪欲に吸収していった。 問のからメーカーと直接交渉し、量括仕入れによって仕入れ値を限界まで叩き落とすスケールメリットの威力も、骨の髄まで理解した。
郎の営業成績は社内で常にトップをり、代半ばにして、課補佐の肩きと、同世代のサラリーマンの倍い料をにするようになっていた。
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仕ての良いスーツを着こなし、営業の産ダットサンを乗り回す郎の姿は、どこから見ても「成功した京の企業」そのものだった。
しかし――に度、正に故郷へ送る現留の封筒には、ただ「健へ 活のしにしなさい」とだけりきし、父・源宛てのを文字も添えることはなかった。 母からの返信には、いつも震えるような文字でこうかれていた。 『郎、元気にしていますか。お父さんは相変わらず無ですが、あなたの送ってくれたおは銭も使わず、仏壇の引きしにしまってあります。……無理をしないでね』
(使わないだと? ふん、相変わらずの張りいいっぱいだな、親父)
郎はをデスクの奥へ放り込み、たい笑みを浮かべた。 自分は京の最先端で、巨な流通の波を乗りこなしている。 方の古びた商で、埃をかぶった噌樽にしがみついている父を見返してやった――そう自分に言い聞かせていた。
だが、昭、。 郎の元へ、弟の健から本の報が届いた。
【チチタオレル スグカエレ ケンジ】
カタカナ文字のい片を握りしめた瞬、郎の臓がなリズムでねがった。
昭、。 郎は急列にび乗り、ぶりに故郷の駅にりった。
改札をた瞬、郎は眉をひそめた。
駅が、自分のっている景と完全に様変わりしていたのだ。