"「お前には継がせない」と言った父が、最後まで守り続けたもの" 第2話
「俺、父さんに断ったんだ! なんて継げない、兄さんを追いすなら俺がていくって言ったんだ! でも父さん、聞くを持たなくて……『これは決定事項だ』って、俺を鳴りつけて……!」
健のはたく、骨と皮ばかりだった。 幼い頃から百咳や肺炎を繰り返し、埃っぽい倉庫に入るだけで喘息の発作を起こす弟。 そんな弟に、米や噌の労働が務まるはずがない。 すべては、父・源の解極まりない狂気の汰としかえなかった。
「……健、おをんでるわけじゃない」 郎は弟のを静かに、けれどたく振りほどいた。 「だがな、親父が俺をらないって言ったんだ。俺がこのに捧げてきたの汗も、京の就職を蹴って残った覚悟も、親父にとっては邪魔なゴミだったんだよ」
「違うよ、兄さん! 父さんはきっと何か――」
「もういい!」 郎はボストンバッグを肩に担ぎ、部をた。
にりると、台所の暗がりから母のフミが駆け寄ってきた。 涙で目を腫らし、懐から聞に包んださな包みを差ししてくる。 「郎……これ、持っていきなさい。私のへそくりよ。京の叔父さんのアパートへけば、とりあえずのむ所は……」
郎はその包みを押し返した。 「いらないよ、母さん。施しを受けてをるほど落ちぶれちゃいない。……親父に伝えてくれ。
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『佐々商が潰れても、俺は銭も助けない』ってな」
帳の奥の寝からは、何の物音も聞こえなかった。 父は、息子の旅ちを見送るために起きしてくることすらしなかったのだ。
の引き戸を乱暴にけ放つと、晩の突き刺すような朝が、郎の頬を打った。 旭町商の通りは、まだんだように静まり返っている。 舗装もされていない砂利を、郎は度も振り返ることなく股で駅へと歩いた。
午分発、野きのり鈍列。 い張りの座席に座り、煤煙の流れる窓のを見つめながら、郎の胸の奥底で、ドス黒い炎が静かに燃え盛っていた。
(見てろよ、親父。……俺を追いしたことを、畳ので悔させてやる)
蒸気関の甲い汽笛が、え切った朝の空を切り裂いて響いた。 それは、昭という激の代が、古き良き町と商を呑み込み、未曾の荒波へと突入していく号砲でもあった。
京した郎を待っていたのは、昭代初の、沸騰する京のエネルギーだった。 焼け野原から復興を遂げた首都には、全国から集まった若者たちの気が溢れ、面がひしめき、建設ラッシュの槌音が昼夜を問わず響き渡っていた。
郎は、代の就職の伝を頼り、神田に本社を置く堅品卸「商事」
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の配送倉庫に転がり込んだ。 「方の万の倅か。なら、伝票の読みきも荷物の扱いも慣れたもんだな」 倉庫の言で、郎はそのからトラックの助に配属された。
郎は狂ったように働いた。 朝に起き、築や芝浦のから届く量の缶詰、乾物、調料をトラックへ積み込み、都内の売へと運ぶ。 の若者が音をげるようない醤油樽の荷ろしも、郎は歯をいしばってで担ぎげた。 体をかし、疲労でのように眠るだけが、父への激しい怨嗟を忘れられる唯のだったからだ。
京してが過ぎた昭の、郎の運命をきく変える景との会いがあった。 港区青にしくした、ある舗への配送を担当したのことだった。
「おい、佐々。今の納品先は普通の百や酒じゃねえぞ。『スーパーマーケット』っていう、アメリカ帰りのしいだ」 トラックの運転が、煙を燻らせながら言った。
「すーぱーまーけっと……?」 聞き慣れない横文字に首を傾げながら、郎は荷台から商品をろした。
舗の自ドアをくぐった瞬、郎は息を呑んでち尽くした。 そこには、郎のる「商」の姿は微もしなかった。
暗い帳も、主との掛けいもない。 蛍灯が昼のように々と照らしす広なワンフロアに、然と並べられたスチールラック。
そこには、綺麗に分け包装された野菜、鮮やかな缶詰、瓶に入った醤油やソースが、然と陳列されていた。