"義母に逆らった妻を閉じ込めた夫が、翌朝失ったもの" 第13話
壁の棚には、お気に入りの観葉植物と、仕事で使う簿記の専が然と並んでいる。
蔵庫をければ、自分がべたいものだけが入っている。休に誰かのために朝く起きて朝を作る必も、義実への送を気にして胃を痛めることもない。
「菜緒、コーヒー入ったわよ」
キッチンから、遊びに来ていた真紀が声をかけてくれた。
リビングのテーブルに並べられたつのマグカップ。湯気とともにちるモカのりが、穏やかな部を満たしていく。
「どう? 暮らしには慣れた?」
「うん。最初の頃はね、夜に物音がすると、誰かがドアのにっているんじゃないかって怖くなることもあった。でも今は……すごく息がしやすい」
菜緒はカップを両で包み込み、柔らかく微笑んだ。
浩司はその、建材メーカーを諭旨解雇となり、現は郊の配送センターで非正規の仕分け作業員として働いていると、松田弁護士を通じての噂で聞いた。久美子の公団宅では、活費を巡って直夫婦とので毎のように号がび交っているらしい。
だが、その報復劇の結末は、もはや菜緒のの関事ではなかった。
「菜緒があの夜、トイレので屈せずに、証拠を集め始めたのがすべての始まりだったわね」真紀が慨げに言った。
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「もしあそこで『私が悪かった』って謝って扉をけてもらっていたら、今頃マンションも貯も全部奪われて、ボロボロに使い潰されていたはずよ」
「そうね……」
菜緒は窓のの青空を見つめた。
あの、自分を救ったのは奇跡でも偶然でもなかった。
「嫌なものは嫌だ」という自分のの声を、自分自が信じてあげたこと。そして、に流されず、事実と数字と記録を積みねて、現実な防壁を築いたこと。それだけが、自分を暗から救いす唯の梯子だったのだ。
真紀が夕方に帰宅した、菜緒はで簡単な夕を済ませ、バスルームへ向かった。
湯に浸かり、温かい湯のでを伸ばす。誰にも急かされることのない、贅沢で穏やかな。
呂からがり、パジャマに着替えた菜緒は、洗面台で髪を乾かし、ふとトイレのにった。
臓が、トクンとさくねた。
4ヶが経った今でも、トイレのい扉を見ると、あの夜のたいタイルの触と、締めされた絶望の記憶が、いのように脳裏をかすめることがあった。
菜緒はゆっくりと扉をけ、に入った。
そして、内側から、静かにカチャリと鍵をかけた。
半畳の空。換気扇のい唸り声。
菜緒は壁にを当て、く、く息を吐きした。
廊の向こうには、誰もいない。
鳴り声をげる夫も、自分を値踏みする義母も、ここにはしない。
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菜緒はを伸ばし、ドアノブを握りしめた。
のひらに伝わる属のたさは、かつてのように自分を縛る鎖のたさではなかった。
カチャリ。
サムターンを回し、ノブを押しげる。
何の抵抗もなく、扉は側へと軽やかにいた。
目のに広がったのは、柔らかな接照のに包まれた、自分だけの温かいリビングだった。
菜緒の目から、い涙が筋、頬を伝って零れ落ちた。しかしその唇には、確かな誇りに満ちた微笑みが浮かんでいた。
自分で閉めた扉は、自分のでけることができる。
誰かの許しを乞う必など、最初からどこにもなかったのだ。
菜緒はリビングへ戻り、ローテーブルのの帳をいた。
から始まるしい1週のスケジュール欄には、仕事の予定と、週末に真紀とかける帰り旅の計画だけが、綺麗な青いインクでき込まれていた。
玄関の鍵は、しっかりと施錠されている。
それは誰かを締めすためのものではなく、自らのしい活と尊厳を守るための、誇りき鍵だった。
窓のでは、の夜空に澄み切ったが浮かび、静かに、優しく、菜緒のしい世界を照らししていた。