"義母に逆らった妻を閉じ込めた夫が、翌朝失ったもの" 第1話
「朝までそこでをやせ」
いオーク調の引き戸が激しい音をてて閉まり、側からカチャリと属が噛みう鈍い音が響いた。続いて、廊のフローリングを踏みしめる夫・浩司の荒々しい音がざかっていく。
菜緒は両を伸ばし、扉の表面に指を添えて側へと押しそうとした。だが、わずか数ミリの隙すらじず、扉はく閉ざされたままだった。きの引き戸の側に、筋交いのような突っ張り棒かい荷物が図に噛まされているのが触で分かった。声をげて扉を叩けば、リビングにいる浩司をさらに逆させ、暴力の引きを引く危険がある。
元にあるのは、部着のチュニックのポケットに入っていたスマートフォンだけだった。
換気扇のい唸り声だけが満ちる半畳の空で、菜緒は壁に背を預けてく息を吸い込んだ。液晶画面のロックを解除すると、淡いが狭い壁面をく染めげた。バッテリーの残量は73パーセント。刻は午014分を示していた。
画面を見つめながら、菜緒の脳裏には直に浩司が吐き捨てた奇妙な言葉が引っかかっていた。
『これ以母さんをらせて、あの部の件までこじれたらどうする気だ』
義母の久美子が求めていたのは、無職の義弟夫婦への毎10万円に及ぶ追加の活費援助だったはずだ。
広告
それなのに、浩司はなぜ「部の件」とったのか。この自宅マンションに義弟夫婦にけ渡すような空き部などしない。疑問を振り払うようにを振り、菜緒は番に連絡を取るべき相のトーク画面をいた。
実の姉・真紀だった。
何をどう説すべきか、画面ので指先が瞬止まった。な愚痴や夫婦喧嘩の愚痴として受け取られてはならない。今起きている物理な監禁という事実だけを正確に伝える必があった。
『今、自宅のトイレにから鍵をかけられてられない状態にされています。浩司さんはリビングにいます』
送信ボタンを押すと、1分もしないうちに既読がついた。即座に画面が着信表示に切り替わる。菜緒は慌ててサイドボタンを操作して通話音量を最まで絞り、に押し当てた。
「菜緒、今どこ? 丈夫なの?」
真紀の声はく、夜特の緊張を帯びていた。
「……のトイレ。浩司さんがから何かを噛ませて、かないようにしたの」
「怪は? 殴られたりしたの?」
菜緒は着のから自分の腕をそっとさすった。夕の論の際、久美子のでちがろうとしたところを浩司にく掴まれた跡が鈍く痛んでいたが、皮膚の裂傷や骨の異常はなさそうだった。
「腕をく掴まれたけど、血はない。今は丈夫」
広告
「警察を呼びなさい。今すぐ私が通報する」
真紀の即答に、菜緒は息を呑んだ。廊の向こうにはまだ浩司がいる。警察官がサイレンを鳴らして突入してきたとき、浩司がどのような逆を見せるか予測がつかなかった。何より、13の結婚活ので築きげてきた世体や、「警察を呼ぶほどの事態なのか」という麻痺した迷いが、菜緒の考を縛り付けていた。
「……今は騒ぎにしたくない。浩司さんが逆したら、扉を壊して何をするか分からないから。お願い、朝になったら迎えに来てほしい」
真紀はすぐには承諾しなかった。受話器の奥で、姉が激しいりを押し殺して息をえる気配が伝わってきた。
「分かった。でも菜緒、しでも危険をじたり、相が扉をけて暴力を振るおうとしたら、迷わず110番するのよ。朝までする必なんてないんだからね」
「うん……分かってる」
「の朝、6半には必ずマンションのにくから。通話を切っても、位置報は共したままにしておいて」
通話が切れると、再び換気扇の械音だけが朶を打った。午0半。真紀が来るまで、まだ6ある。
菜緒はスマートフォンのメモ帳アプリをちげた。を交えず、ただ起きた来事を系列で打ち込んでいく。
・19:30 義母・久美子が来訪。夕、義弟・直夫婦への10万円の追加援助を求。
・20:45 菜緒が「これ以の援助は計が破綻する」として求を拒絶。