"黒い着物の誓い" 第12話
私はちがり、窓辺へと歩み寄った。 庭の池には、初の差しがキラキラと反射している。
「赤君。……あなたは、あの私がなぜあなたを許し、おをて替えたのか、議にっていましたね」
赤はさく息を呑み、静かに頷いた。 「はい。……最初は、ヤクザの恐ろしい罠なんじゃないかと疑ったこともありました。タダ働きさせられるんじゃないかって。……でも、現に入って、若や組さんのき様を見るうちに、自分がどれほど浅ましい世界できていたかをいらされました」
「はね」私は振り返り、赤の真っ直ぐな瞳を見つめた。 「誰かに救われて、また誰かを救うき物なのよ」
「誰かに救われて……」
「、私を救ってくれたのは、あなたのお母様でした。そして今、現の危険な瓦礫のから仲を救い、の復興を支えているのは、ならぬあなた自です」 私は赤の逞しい肩に、そっとを置いた。
「あなたが今まで流した汗と涙は、過のいじめの罪を消すことはできないかもしれない。けれど、その痛みを背負ったまま、のために命を張れる派な男にまれ変わることはできた。……お母様が命がけで守ったあなたの命は、今、本物のを放っているわ」
赤の目から、筋の涙が頬を伝った。 しかし、その涙を拭う彼の表は、れやかだった。
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「はい……! 俺、これからも柊興業で働きます。このの、困っているたちの力になれるよう、にまみれてきていきます!」
力い誓いの言葉。 暴力に怯え、虚勢に縋っていたのが、本物の任侠の魂を受け継ぎ、次代の守りへと羽ばたいた瞬だった。
そのの。虫の音が静かに響く夜。 病に伏していた祖父・柊源郎は、族の幹部たちを枕元に集めた。
酸素マスクをし、枯れ枝のようなで私の首を握りしめる祖父の瞳には、なおも消えることのない屈の炎が灯っていた。
「……蒼井」
「はい、お祖父様。ここにいます」 私は膝をつき、祖父の元に顔を寄せた。
「儂の代で……力でねじ伏せる任侠の代は、完全に終わった」 祖父の途切れ途切れの声が、静まり返った部に染み渡る。
「これからの代に必なのは……恐怖ではない。……筋を通し、恩に報い、の痛みを己の痛みとして引き受ける……真の【徳】だ。……おが赤に見せたあの器こそが……儂が見ながらも、成し遂げられなかった……本当の任侠のだ」
祖父は枕元に置かれていた、代々受け継がれてきた漆黒の鞘を持つ刀を、震えるで私の膝のへと押し当てた。 「……柊組代目、柊蒼井。……このの、き者たちの盾となれ。……誇りく、きよ」
「はい……! 必ず、お祖父様の教えを守り抜きます!」
祖父は満そうに微笑み、私のをギュッと度だけく握り返すと、眠るようにして静かに息を引き取った。
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享歳。 激の昭、平成を駆け抜けた巨の旅ちに、藤士をはじめとする百名を超える組員たちが、声を忍ばせて畳に額を擦り付けた。
通夜と告別式には、政財界の鎮だけでなく、の商の主たち、かつて柊の共済で救われた無数の民たちが、のように押し寄せた。 その列の最列には、黒い喪を着て、涙を流しながら案内係を務める赤斗の姿があった。
暴力で支配する代はった。 だが、者のために己を捧げるという潔な魂は、私のので、確かにしい代へと受け継がれていた。
あれから、さらに。 桜のびらがい散るの朝。
私は、あのと同じ祖母の形見である黒い紋付着物に袖を通し、港区の穏やかな宅をで歩いていた。 の掌のには、祖父から受け継いだ檀の数珠。 擦りわせるたびに、懐かしく清らかなりが腔をくすぐる。
ふと、通りの角にあるさな公園のでを止めた。 満の桜の、真しいランドセルを背負った学たちが、母親とを繋いで楽しそうに歩いている。 その母親たちのに、見慣れた柄な女性の姿があった。
赤幸恵だった。 には、あの老舗職が仕てた紺の柄の傘。 今は抜けるようなだったが、まるで傘のように、切そうにその傘をに携えている。