"黒い着物の誓い" 第11話
「斗、これ……届いていたわよ」 幸恵が、押し入れのから細い包みを取りし、ちゃぶ台の横に置いた。
品なで包装された、細い箱。 表には、達な毛で【赤幸恵様 柊蒼井】とだけ記されていた。
「若から……?」 赤が息を呑む。
幸恵が震える指先で包装を解くと、から現れたのは――京都の老舗傘職が作業で仕てたという、見事な紺の絹張りの柄折りたたみ傘だった。 持ちには質な桜のが使われ、、幸恵が私に貸してくれたあの物の傘と、まったく同じ柄の匠が、現代の職技で美しく再現されていた。
箱の底には、枚の便箋が添えられていた。
『お母様へ。 にお借りした傘は、私の宝物として切に元に残させていただきます。 代わりに、このしい傘をお納めください。 これから先、のるも、の吹くも、どうか健やかにお過ごしいただけますように。 ――柊蒼井』
「ああ……」 幸恵はその傘を胸に抱きしめ、声を殺して涙を流した。 「もったいない……私なんかに、こんな派なものを……」
赤は箸を置き、畳に両をついて母を見つめた。 その目からも、ポロポロと涙がこぼれ落ちていた。
「母ちゃん……俺、今の料袋、持ってきたよ」 赤は作業着の胸ポケットから、茶封筒を取りした。 現でも休まず働き、指の皮を破きながら稼ぎした、初めての汗の結晶。
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「借の返済分を引いた、残りの取りだ。……ないけど、全部母ちゃんに渡すよ。これからは、俺が母ちゃんをわせるから」
幸恵は息子のゴツゴツとした、傷だらけのを握りしめた。 「斗……ありがとう……本当に、ありがとうね……」
かつて虚栄と嘘で塗り固められていた庭に、ぶりに訪れた、本物の温かな夜だった。
が流れるのはく、あれからという歳が静かに過ぎっていた。
初の爽やかなが、港区の柊総本部の庭の青葉を揺らしている。 若としての私の執務に、コン、コンと控えめなノックの音が響いた。
「若、柊興業の現責任者が、完報告に参りました」 藤士の声に、私は顔をげた。
「入ってください」
引き戸がき、を踏み入れてきた男の姿を見て、私はわず目を細めた。 仕ての良い作業用ブルゾンを着こなし、ヘルメットを脇に抱えた、堂々たる体躯の青。 焼けした精悍な顔ち、理に引き締まった元。 かつて宴会ので泣き喚いていた、あの赤斗の面は、どこにも見すことができなかった。
「若。港湾第区の規模解体および壌改良事、期内に無事故・無災害で完遂いたしました。これ、完報告と検査済証の控えです」
赤は両で類を差しし、完璧な姿勢で直した。 その際とのこなしは、今や柊興業の誰もが目置く、最の【現総監督】のそれだった。
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「ご苦労様でした、赤君。……難しい現だったと聞いていますが、見事な采配でしたね」 私が類に目を通しながら労うと、赤は照れくさそうにを掻いた。
「いえ……職の親方衆や、鉄次さんに助けられただけです。……それと、若」
赤は背筋を正し、懐から通の封筒を取りして机のに置いた。 そこには、【完済証受領】の文字。
「先の与引き分をもちまして、百万円の替、ならびに利息分の全額返済が完いたしました。……にわたり、本当に、ありがとうございました!」
赤はに膝をつき、々とをげた。 それは、恐怖や保の座ではない。 の誇りある男として、自らのでちがり、過の負債を清算し終えた者だけが捧げることのできる、からの敬の礼だった。
「顔をげてください、赤君」 私が微笑みかけると、赤はゆっくりと顔をげた。 その瞳には、点の曇りもない、青空のように澄み切ったが宿っていた。
「赤君。……お母様は、お元気ですか?」 私の問いに、赤は破顔した。
「はい! 先、願だったさな惣菜のパートを退職しまして、今はで庭菜園を楽しんでいます。若からいただいたあの傘、のになると今でも嬉しそうに差して買い物にかけてますよ。『の宝だ』って言って」
「そう……本当によかった」