"黒い着物の誓い" 第10話
『息子を、の男に鍛えてやってください』ってな」
赤の胸が、ドスンと突かれたように痛んだ。 「母ちゃんが……?」
「おは恵まれてるよ。あんな母親がいて、それを本気で見守ってくれる若がいるんだからな」 鉄次はちがり、吸い殻を踏み消した。 「午からも獄だぞ。……逃げすなら今のうちだ」
赤は血の滲む掌を見つめ、そして、のついた軍を再び固く握りしめた。 「逃げません。……俺、絶対に逃げません!」
のからちがった赤の目に、昨夜までの濁ったは、もはや欠片も残っていなかった。
同じ頃、私は港区にある柊組の総本部――築百のな武敷の広で、机のに広げられた類のと向きっていた。
暴力団排除条例の化に伴い、現代の任侠組織がき残るは狭く、厳しい。 しかし、祖父・源郎が築きげた柊グループは、違法なシノギを完全に排除し、港湾荷役、伝統建築の解体再、そして域社会のセーフティネットとしての福祉事業を核に据えた、クリーンな事業体へと舵を切っていた。
「若、今の域見回り隊の報告です」 藤士が、几帳面にまとめられたファイルを差ししてきた。
「駅の商で、悪質な業者の取りてが件ありました。すべて当方の法務部が介入し、警察の活全課と連携して排除完しております。
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被害に遭われた個商主の方々には、柊の共済基から利でのて替え融資を実いたしました」
「ご苦労様でした、藤士さん。……商の灯の修繕費は、今期の予算から全額寄付しておいてくださいね」 私が指示をすと、藤士は嬉しそうに目を細めた。
「畏まりました。……先代も、葉のでんでおられることでしょう。若がこうして、昔ながらの『の番』としての柊の誇りを守り続けてくださっていることを」
私はを置き、の数珠に触れた。 世から見れば、私たちはどこまでっても「ヤクザ」であり、忌み嫌われる者だ。 私自、代はその自に苦しみ、自分の血を呪った夜が数え切れないほどあった。
だが、祖父の背を見つめ、この世界の実をるにつれ、私の考えは変わっていった。 がければいほど、その元にはいが落ちる。 警察も、政も、法律のすら届かない、社会の底の吹き溜まり。 そこで理尽に泣かされている々を守り、悪の侵を押し留める防波堤となること――それこそが、祖父が私に託した「柊の任侠」だった。
ふと、庭に目をやると、池の鯉が静かに波紋を広げていた。 「……藤士さん。赤君の様子はどうですか」
藤士は微かに角をげた。 「初は音をげるかといましたが……逃げさずにらいついておりますよ。
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鉄次が申しておりました。『あいつの目は、んでいない』と」
「そう……よかった」 私は堵の息を吐いた。
は、誰しもさゆえにを踏みす。 だが、から己の罪を悔い、汗を流して贖おうとする者に、やり直す会を与えること。 それもまた、力を持つ者の果たすべき責務なのだ。
が本格化し、に枯らしが吹き荒れるの旬。 赤が柊興業に入ってから、ヶが経過していた。
「斗、おかえり」 古びた造アパートの玄関で、幸恵が温かい割烹着姿で迎えた。
ガラリといた戸にっていたのは、ヶとは見違えるほど精悍になった息子の姿だった。 肌は潮と太陽に焼かれて浅黒く引き締まり、贅肉の落ちた体躯にはい筋肉がついていた。 髪だった髪は真っ黒にく刈り揃えられ、かつての虚勢を張ったようなら笑いは消え、その瞳には落ち着いたが宿っていた。
「ただいま、母ちゃん」 赤はのついた全靴をで丁寧に揃え、洗いで真っ黒になったを鹸で何度も擦り洗いした。
居のちゃぶ台には、湯気のつ湯豆腐と、アジのきが並んでいた。 赤は正座し、静かにをわせた。 「いただきます」
ご飯を、に運ぶ。 ただの米が、噛み締めるたびに甘く、全の細胞に染み渡っていく。 、氷点の現で瓦礫を運び、骨の髄まで疲弊したにべる、母親の作った飯。
これほど美いものを、自分はこれまでののでべたことがあっただろうか。