"黒い着物の誓い" 第9話
私は、差しされたスマートフォンの画面を瞥もしなかった。 の数珠を静かに握り直し、凛とした通る声で、宴会全体へ向けて言い放った。
「お引き取りください」
すり寄ってきた男女のが、ピタリと止まった。
「私は、今この同窓会に、旧友とのいを語りうためにを運びました。しかし、ここにいたのは、かつてと同じように者に媚び、者を嘲笑い、の痛みに盲目な々の群れだけでした」
私の線が、部の隅々を射抜いていく。誰もが目を逸らし、居悪そうにを縮めた。
「赤君は、過ちを犯しました。けれど彼は今、自分の罪とさを認め、にまみれてやり直す覚悟を決めました。……それに比べて、あなた方はどうですか? 誰かが虐げられているは笑って加担し、向きが変われば何事もなかったかのように擦り寄る。……その浅ましさこそが、最も醜悪な暴力です」
宴会は、を打ったように静まり返った。 誰も反論できない。自分たちの胸の奥にある卑屈な計算を、完全にのに晒されたからだ。
「私の連絡先をお教えすることはありません。今、柊組の名を軽々しくにすることも禁じます。……失礼いたします」
私は幸恵のをそっと引いた。 「お母様、きましょう。でお送りします」
「あ……はい……」 幸恵を伴い、祖父と藤士を先に、私たちは宴会のへと向かった。
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黒スーツの列が割れ、私たちが通り過ぎると同に、再び然とをげる。 背に残されたのは、度と埋めることのできない格差と、己の浅さに打ちのめされた同級たちの、え切った沈黙だけだった。
翌朝、午分。 京湾沿いの業帯に位置する『柊興業』の資材置きは、からのたい夜に包まれていた。
キキッ――とブレーキ音を鳴らして止まった送迎ワゴンのドアがき、赤が転がるようにりてきた。 昨夜の派なグレースーツとのネックレスは剥ぎ取られ、につけているのは、量販で買い与えられた最も価な紺の作業着と、全靴だった。
「列!」 現監督を務める柊組の若衆・鉄次(歳)の号が響いた。 名い屈な作業員たちが、無言でヘルメットの顎紐を締める。
「入り、おが赤だな」 鉄次が赤のにちはだかった。顔にある古傷と、丸太のように太い腕。 「組と若から話は聞いている。……甘ったれた真似をしたら、この埋に埋めるからそのつもりでいろ。ほら、袋だ!」
投げ渡されたのは、のイボ付き軍だった。 「本の現は、造密集域の解体現だ。が入らねえ狭だから、廃材の搬は全部作業だ。れ!」
「は、はいっ!」 赤は震える声で叫び、トラックの荷台へとび乗った。
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現は、文字通りの獄だった。 解体された柱のトゲ、錆びた釘、割れた瓦礫の。 それらをモッコに積み、埃とにまみれながら、何往復も狭いをってダンプへと運ぶ。
「遅いぞ赤! が止まってんぞ!」 「す、すみませんっ!」
午を回る頃には、赤の全は汗とで黒ずみ、膝はまれたての子鹿のように笑っていた。 掌の皮が破れ、軍を突き破って血が滲みる。 これまでエアコンの効いたショールームで客を騙すような先だけできてきた男にとって、秒秒がの境を彷徨うような労働だった。
(ぬ……本当にんじまう……) 瓦礫を抱えたまま、赤は濘にを取られて派に転倒した。 胸元を打し、がのに入り込む。
「起きろ赤! 飯のだ!」 正午を告げるサイレンが響いた。
作業員たちが座になって弁当をく、赤はプレハブの隅に倒れ込み、肩で息をしていた。 指先が痙攣し、握り飯を掴むことすらできない。
そこへ、ドスンとい音がして、誰かが目のに腰をろした。 顔をげると、現監督の鉄次だった。 鉄次は無言で、自分の筒の蓋に注いだ麦茶を赤のに差しした。
「め」 「……あ、ありがとうございます……」 震える両で受け取り、気に喉へ流し込む。たい茶のが、臓腑に染み渡った。
「おの母親な」鉄次がタバコにをつけながら、ぶっきらぼうに言った。「今朝、現事務所に作りの梅干しの壺を持ってをげに来たぞ。