"黒い着物の誓い" 第5話
そのポケットから、黒革の帳を取りし、徹な事務調で読みげる。 「赤斗。現歳、無職。……先まで勤めていた古販売会社を、顧客の売の横領未遂で懲戒解雇。現、消費者融社からの借入残が約百万円。返済の遅延が続いております」
「なっ……!?」 赤が目を見張り、絶句した。 同級たちのから、息を呑むどよめきが漏れ聞こえる。
「なぜ、そんなことまでって……!」
「こので、柊組の目を逃れられる裏などせんよ」 藤士はややかに言い捨てた。
ピカのネックレスも、派なグレースーツも、すべて借で塗り固められたっぽい虚栄の鎧。 赤が同窓会で私を貶め、見そうとしていたのは、自らの惨めな転落から目を背けるため、最もしかった私を「自分よりの」に仕てげてしたかったからに過ぎなかったのだ。
「す……すいませんでしたあああっ!!」
赤は突然、に額を激しく叩きつけた。 ドスッ、ドスッ、と鈍い音が宴会に響き渡る。 額の皮膚が擦り切れ、血が滲むのも構わず、赤はにいつくばって泣き叫んだ。
「俺が悪かったです! 調子に乗ってました! ヤクザの組さんだなんてらなくて……! 酒をかけたのも、机に落きしたのも、全部俺が悪かったです! どうか、命だけは……命だけは助けてください!!」
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さっきまでの尊な態度は、跡形もなく消えっていた。 と涙で顔をぐしゃぐしゃにし、うようにして私の元へと擦り寄ろうとする。 しかし、そのに藤士の太い革靴がちはだかり、赤の指先をたく遮った。
「がりなさい。若の御に触れることなど許されん」
赤はビクッとを縮め、を掻きむしりながら嗚咽を漏らした。 その姿を見て、先ほどまで赤と緒に私を嘲笑っていた同級たちも、次々とに膝をつき始めた。
「蒼井さん、ごめんなさい……! 私、赤君にわせないと何を言われるか怖くて……!」 「俺たちもらなかったんだ! 悪気はなかったんだよ!」 宴会のあちこちから、見苦しい自己保の謝罪が唱のように湧きがる。
の教で、私を孤させ、机の落きを見て見ぬ振りをした者たち。 そして今もまた、酒をかけられた私を嘲笑い、者に媚び諂っていた者たち。
私はの数珠を静かに握りしめ、徹な差しでその景を見ろした。 りは、議なほど湧きがらなかった。 あるのは、ただい虚しさと、憐憫だけだった。
「顔をげてください、皆さん」 私の静かな声が、泣き声に包まれた部に染み渡った。
全員が恐る恐る顔をげる。 赤も、赤く腫れた涙目で私を見げた。
「私は、あなた方に復讐するためにここへ来たのではありません。
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……謝罪も、座も必ありません」
「え……?」 赤が信じられないというように目を見いた。 「な……なんで……? 俺、おにあんな酷いことしたのに……酒までかけて……」
「ええ。酷いことをされました」私は淡々と告げた。「けれど、暴力や恐怖でを屈させても、そこには何の解決もまれない。祖父からそう教わってきました」
祖父・源郎が、満そうにさく頷いた。
「ただ、赤君。あなたが背負っているは、私への謝罪で消えるものではありませんよ」 私がそう言った瞬――。
宴会の入りのエレベーターが、再びピンとい音をてていた。 そして、息を切らしたの女性の甲い声が、静まり返ったフロアにび込んできたのだ。
『斗! 斗、いるの!? あんた、お財布を忘れてるわよ!!』
「……え?」 にへたり込んでいた赤の全が、に打たれたように直した。
現れたのは、スーパーの清潔なエプロンをつけたまま、使い古した皮のトートバッグを抱えた、代半ばの柄な女性だった。 パーマの崩れた髪、目尻にく刻まれた苦労の皺。 には、赤が実に忘れていった物のつ折り財布が握られていた。
「もう、同窓会でおを使うって言ってたのに、肝のお財布を忘れるなんて……」 女性は息を切らして宴会へと駆け込んできた。
しかし、歩を踏み入れた瞬、女性のがピタリと止まった。
数名の黒スーツの男たちが直で並び、には割れたクリスタルグラスの破片と酒の染み。