"黒い着物の誓い" 第1話
「おんち、ヤクザだっけ?w 今すぐ呼んでみろよw」
居酒の広を貸し切った同窓会の喧騒が、その品な言で瞬にして静まり返った。 周囲のテーブルから、品のない含み笑いと野次がドッと沸き起こる。
「おいおい赤、やめとけって! どうせハッタリに決まってんだろ!」 「ヤクザの親戚なんて嘘つきの妄だろ! 呼べるもんなら呼んでみろよな!」 百く集まったかつての同級たちのに、私を庇う者はただのもいなかった。
、夜。 都内のシティホテルの宴会。 華やかなパーティードレスやブランドスーツを着飾った男女が群がる、私――柊(ひいらぎ)蒼井(あおい、歳)だけが、祖母の形見である漆黒の紋付着物にを包んでいた。 の掌のには、檀のりを微かに放つ古い数珠。
私の正面に仁王ちしているのは、かつて代にクラスの頂点に君臨し、私を執拗にいじめ抜いた主犯・赤斗(あかぎ・はやと、歳)だった。 派な沢のあるグレースーツに、傷だらけの物ゴールドネックレス。 酒気を帯びて赤く充血した目で、赤は私の顔を覗き込み、片に持っていたウイスキーのグラスを嘲笑とともに傾けた。
バシャッ――。
たい琥珀の液体が、私の胸元めがけて容赦なく浴びせられた。
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紋の刺繍された黒い絹織物に、濃い染みがじわりと広がっていく。
「あーあ、悪い悪い! が滑っちまったわ!」 赤は空になったグラスを揺らしながら、ケラケラと肩を揺らした。 「てかさ、何なんだよその格好! 極の妻のコスプレか? それともヤクザの芸者でもやってんのかよ! 汚れた方が似ってんじゃねえの!?」
周囲の同級たちが斉に爆笑する。 隣の席の女子グループが、わざとらしくりで席をれた。 「うわ、関わりたくない……」「あいつのせいでの空気が最悪じゃん」
私は濡れた着物の袖を見つめた。 指先が、りで微かに震えそうになる。 だが、その震えを制するように、脳裏に懐かしい厳格な声が響いた。
『わめかず耐える。それが器だ、蒼井。を叩き潰すのは力さえあれば誰にでもできる。だが、のにつ者は、己のにまれてはならん』
祖父――柊組代目組・柊源郎の教え。 私はく息を吸い、の数珠をギュッと握り締めた。 そして、顔をげ、赤の濁った瞳をまっすぐに見据えた。
「赤君。……今、何と仰いましたか?」
「ああん!? 聞こえなかったのかよ!」 赤はテーブルに両を叩きつけ、私の先まで顔をづけて唾をばした。 「呼んでみろって言ってんだよ、おの自のヤクザとやらを! どうせ嘘百のハッタリだろ! ここに呼んで座でもさせてみろや!!」
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個のえ切った空気が、張り詰めた糸のように張りつめた。 私はバッグから、私用のスマートフォンを静かに取りした。 画面をタップし、元へ当てる。
「いいですよ。……今、呼びますね」
「もしもし、藤士(ふじどう)さん」
通話ボタンを押して秒、私は騒然とする宴会の喧騒を背に、く落ち着いた声で発信した。 受話器の向こうから、鍛えげられた猛獣のようなな声が即座に応答する。
『――若。お迎えにがりますか』
「ええ。ホテルの宴会の正面玄関まで、を回してください。……組員を全員連れてきて」
『畏まりました。分で参ります』
通話が切れた。 プツリと切れた子音の向こう側で、赤が拍をしながら袈裟に腹を抱えて笑いした。
「ぎゃははは! 聞いたかよ今の! 『若』だってよ! おいおい、極映画の見過ぎじゃねえのか!?」 赤は周囲の同級たちにウインクをばしながら、ジョッキのビールを気に煽った。 「分で来るんだってよ! 待ってやろうじゃねえか! どうせボロい軽トラが台、ビビりながら乗り付けてくるのがオチだろ!」
「そうよ、みっともないハッタリかけちゃって」 「のから暗くて気悪かったけど、になっても虚言癖が治ってないのね」 取り巻きの男女が、嘲笑混じりに私へたい線を投げつける。
私は何も言い返さず、窓辺へと静かに歩み寄った。
階の宴会のきなガラス窓からは、ホテルのを通る片側線の目抜き通りが望できる。