みかん小説
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"配給米を隠す母の秘密" 第5話

戸籍「消息」のままであれば、わずかながらも戦扶助の米が削られることはない。 そして母は、度の配から、族の命を削らない極限の量――の米だけを隠し、夜にこうして父の命を繋ぐために運んでいたのだ。

「達也のい飯は……」私は震える声で母を問い詰めた。「達也にだけ米をわせてたのは、なんだったんだよ」

「……あの子はね、お父さんの顔をほとんど覚えていないのよ」 母の目から、涙がこぼれ落ちた。 「お父さんが征した、達也はまだ歳だった。キヨなんて赤ん坊だったわ。……お父さんがね、『俺の記憶がないまま育つあいつらに、せめて父親がきていた証として、い米をわせてやってくれ』って……自分がべるはずだった米を、しずつ削って私に持たせていたのよ」

「な……」

私の線が、筵のの清へと向いた。 父の枕元にあったのは、空になった茶碗と、を入れた駐軍の空き缶だけだった。 母が運んできたの米の袋は、まだけられていなかった。 父は、母が運んでくる米の半分以を、そのまま母に突き返し、「達也とキヨにわせろ」と命じ続けていたのだ。

(俺は……何をっていたんだ)

羞恥と悔が、津波のように押し寄せてきた。 自分だけが苦労しているとっていた。 歳で学を辞め、で働いている自分だけが、このの最の犠牲者だと信じ込んでいた。

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だが、本当の獄の底にいたのは、きて祖国のを踏みながら、族を飢えさせないために「者」であり続けることを選んだ、この父親だったのだ。

「父さん……」 私はに両膝をついた。 がズボンの布を濡らしたが、気にもならなかった。 「帰ろう。……こんなところで、ぬなよ。俺が、もっと働くから。夜勤も、も全部に入るから……だから、に帰ろうよ」

しかし、父は静かに、けれど絶対に揺るぎない力で首を横に振った。

「ダメだ、正」 父の痩せたが、私の肩に置かれた。 そのの骨ばったさは、記憶のの父のと同じだった。

「おがこれ以働いたら、おぬ。……おはまだ、歳なんだぞ。俺のせいで、おの命まで削らせるわけにはいかん」

夜の静寂のくで貨物列の警笛が、引き裂かれるように響いた。 父を連れ戻すべきなのか、それとも、このしい嘘を守り続けるべきなのか。 歳の私には、その答えをすための恵も、力も、何つ残されていなかった。

に入ると、本列島は戦の寒波に見われた。 吹き付けるからの季節が、町の古いをガタガタと揺らし、夜になると畳の隙から凍てつく気ががってきた。

そして、私の働く請け製鉄に、致命な打撃が訪れた。 炭の配止と、GHQによる産業解体の余波を受け、の操業が週縮されたのだ。

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「佐藤、すまんな。今週の当は、これだけだ」 の夕方、の親方から渡された与袋は、先の半分ほどのさしかなかった。 「来からは、さらに仕事が減るかもしれん。……若いおには申し訳ないが、文句があるならで担ぎでもやるんだな」

親方の申し訳なさそうな顔を責めることなどできなかった。 町がバタバタと倒産し、角には復員を着た浮浪者と、物乞いの子どもたちが溢れかえっていた。 仕事があるだけでも、まだ奇跡に代だったのだ。

くなった与袋を握りしめ、私はのちらつくへと急いだ。 に入ると、台所にはの気配がなかった。 がり框に腰をろしていた母が、青ざめた顔で私を迎えた。

「正……キヨが……」

奥の暗い畳半。 万に横たわっていた妹のキヨは、頬を真っ赤に染め、苦しそうに荒い息を吐いていた。 触れた額は、がついたようにい。 「医者は……医者に見せたのか?」 「……往診を頼みにったけれど、診察代と薬代を先払いで払えないならけないって、断られたわ」

母の唇が、悔しさに震えていた。 での抗物質の価格は、私のひと分の料を軽く超えていた。 キヨのさな腕は、栄養失調のせいでの枝のように痩せ細り、呼吸のたびに肋骨の形が浮き彫りになっていた。

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