"配給米を隠す母の秘密" 第4話
私は耐えきれず、板戸にをかけた。
バダンッ!!
荒々しい音をてて板戸がねがった。 吹き込んだ夜が、央のさなランプの炎を激しく揺らす。
「正……!?」 母がびがるように振り返り、両で米袋を庇うように抱き寄せた。
ランプのかりの、に仁王ちになった私と、筵のに倒れ伏す父の線が、真正面から激突した。 父の瞳が、恐怖と絶望で見かれる。 「し……正……お、なんでここに……」
「父さん……きてたのかよ」
私の声は、く、震えていた。 自分でも驚くほど、淡で乾いた声だった。 「んだって……戦で消えたって、役所からが届いたんだぞ。母さんも、俺も、達也も、みんな父さんはんだとって諦めたんだ。……なのに、なんでここにいるんだよ! なんでに帰ってこないんだ!!」
私は母が抱える米袋を指差した。 「母さんが毎隠してた米は、これだったのか!? 達也にだけい飯をわせて、俺には麦のカスをわせて……全部、ここに運ぶためだったのかよ!!」
「正、違うの! おを騙すつもりじゃ――」 母が泣き叫びながら私の元に縋り付こうとした。 しかし、それを制したのは、筵のの父だった。
「やめろ、静」 清は、折れ曲がったを引きずりながら、腕の力だけでへといてきた。 私のまみれの袋のに、だらけの額を擦り付ける。
広告
「正……すまなかった。おをらせるのは、当然だ」
「謝って済むかよ!」私は叫んだ。「きてるなら、帰ってこいよ! 怪してるなら、で寝てりゃいいだろ! 俺が……俺がでどれだけ働いてるとってんだ! 学も諦めて、毎のひらに豆作って、油まみれになって……族を支えてきたのは俺なんだぞ! 父親のおが、なんでこんなところでコソコソ隠れてるんだよ!!」
私の声が、いバラックの壁を突き破って夜のに消えていく。 父は額をにつけたまま、掠れた声で、言言、血を吐くように語り始めた。
「……帰れると、うか」
「は……?」
「俺がに帰ったら……おたちの配の米が、どうなるか分かるか」 父はゆっくりと顔をげた。 その瞳には、かつて私をがってくれた父親の優しさと、極限の戦をき延びたの、底れぬ獄のが宿っていた。
「俺は、復員で鶴に着いた、結核の初期症状と、の砕骨折を抱えていた。……歩くことも、い物を持つこともできん。完全に、労働力を失った廃だ」
父の痩せこけた指先が、私の胸元を指した。 「今の配制度をっているだろう。の男がきて戻れば、役は『成の扶養族が増えた』と判断する。だが、働けない俺には、怪の証など何の役にもたん。配されるわずかな麦と米を、で分けわなければならなくなるんだ」
広告
「それは……」
「俺が帰れば、このは確実に飢える」 父の言葉が、私の臓に氷の杭を打ち込んだ。
「育ち盛りのおと達也の茶碗から、さらに米が減る。幼いキヨのに入る粥が、に変わる。……ただきているだけの、飯をうだけの穀潰しがに転がり込むことが、今のこの代、どれほど族を殺すことになるか……おには分からんのか」
父の言葉は、酷なまでに正しかった。
当の糧事は、数字の帳尻わせでは決して解決しない、文字通りの競争だった。 配は遅配と欠配が常茶飯事で、公定価格の配米だけで命を繋ぐことなど能だった。 に並ぶ米は、公定価格の数倍。 私が製鉄請けでどれほど残業をねても、稼ぎせる料には限界があった。 が増える――それも、労働ができず、薬代と栄養を必とする傷病兵が増えるということは、佐藤というさな舟が、過積載で沈没することをしていた。
「父さんはね……」 母が私の背にを当て、涙声で囁いた。 「今の、鶴から列を乗り継いで、夜にこの町へ辿り着いたのよ。でも、のまで来て、窓から達也とキヨがすいとんを分けっている姿を見て……どうしても、引き戸をけられなかったの」
『俺の顔を見たら、族はぶだろう。だが、その翌から、あいつらの胃袋が削られる』。
父はそう言って、町役にの届けをすことも拒み、駅裏のバラックにを隠したのだ。