"毎月7000円を隠していた夫の20年の秘密" 第8話
用のドラム缶の薪はとうに燃え尽き、昭雄の詰めのグリスは寒さで蝋のように固まっていた。
午2を回った頃だった。
連の徹夜で昭雄の識は朦朧としていた。袋をした指先は覚を失い、に変していた。本の固定ボルトのうち、裏側の最の本を締め込んだ、カチリと乾いた音がした。
「ボルトのネジが舐めていたんです。古の粗悪なボルトだった。だが、親方は『締め直すなんぞねえ、そのまま回せ』と鳴り散らした。昭雄は瞬躊躇ったが、親方の剣幕に押され、そのまま起スイッチを入れた」
速回転を始めた巨な鉄塊は、猛烈な切り音をてて唸りをあげた。
切削油の煙がち込め、刃先が鋼板に触れた瞬——ズンという鈍い響きがった。
「主軸のチャックが力と切削抵抗に耐えきれず、々に破断したんです。固定を失った数キロの鉄板が、回転したまま台座をびして、ねがった」
清司の瞳の奥に、20のあの夜のが宿ったように見えた。
鉄板の軌の真正面、逃げのない狭い通にっていたのは、スイッチの横にち尽くしていた昭雄だった。疲労と恐怖でがすくみ、んでくる鉄の刃をに、昭雄は目を見いたまま歩もけなかった。
「俺は……無だった。
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横からあいつの体を体当たりで突きばした。昭雄は械の隙に転がり込んで助かった。だが、ね返った鉄板が、逃げ遅れた俺の脚を……壁とのに挟み込んだんだ」
グシャリという、をへし折るような音がの騒音を切り裂いた。
吹きんだ鉄板の角が、清司のの太腿から膝を丸ごと押し潰していた。鮮血がの混じるに広がり、作業着が瞬くに赤黒く染まった。
「昭雄の鳴が聞こえた。『清司! 清司!』って、油と血まみれになりながら俺の体を引きずりそうとしていた。病院へ担ぎ込まれたには、もう膝からを切り落とすしかがなかった」
子が目を濡れたぬぐいで押さえ、さく肩を震わせた。
文子は息ができなかった。胸を巨な万力で締めげられているようだった。
無で、械の点検だけは病なまでに執拗だった夫。精のの片隅で、作業を始めるにボルトの締まり具を何度も何度もスパナで叩いて確かめていたあの背のが、たい刃となって胸に突き刺さった。
事故の、現実は残酷な速度で崩壊していった。
零細の親方は、労災保険の加入続きを怠っていた。当は労働基準法の精神など現の末端には届いておらず、警察や労働基準監督署の査察を恐れた親方は、清司の入院費のとしてわずか万円を病院の窓に投げしたきり、け々にの械をすべて密かに売り払い、夜逃げして方をくらました。
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「被害者も加害者も、類のではしないことにされたんです。業務過失傷害の捜査も、親方が消えてしまえばそれでおしまい。残されたのは、脚を失って寝たきりになった歳の俺と、田舎から着の着のままで京へ呼びされた母だけだった」
入院費はかさみ、傷が化膿して再術が必になった。
親戚筋からも見放され、子が血の滲むようないで雇いの炊きしや袋張りの内職をして薬代を稼いだ。
その病へ、毎欠かさず通ってきたのが昭雄だった。
「あいつは、やつれ果てて幽霊のようになっていました。川のが潰れた、別の鉄所で雇いの伝いをしながら、夜になると俺のベッドの脇にやってきて、畳のに正座してをに擦り付け続けた」
『俺がボルトの確認を怠った。俺があの、親方の鳴り声に負けてスイッチを入れた。俺が清司の脚を奪ったんだ』
昭雄は毎、同じ言葉を泣きながら繰り返したという。包帯を取り替えるたびに、清司の失われた脚の断端を見つめては、自分の両を壁に打ちつけ、「この腕を切り落として清司にやりたい」と血を流して叫んだ。
「俺はね、奥さん。昭雄に言ったんですよ。『おをんでなんかない。おがなずに済んだんだから、それでいい。