"毎月7000円を隠していた夫の20年の秘密" 第5話
「くな! 頼むから、へはかないでくれ! あそこへっちゃいけないんだ!」
「くわ。かないで、私がこの先どうやってあなたと同じ根ので息を吸えっていうのよ!」
文子は寝へ向かい、押し入れから自分用のい煎餅布団を引きずりした。仏の畳のにそれを乱暴に敷き、引き戸をピシャリと閉ざした。
鍵のない板戸の向こうで、昭雄がち尽くしている気配がした。
夜が更けても、居のかりは消えなかった。文子は暗がりので、え切った布団を被り、井の目を見つめ続けた。
の欺瞞。
真面目を絵に描いたような夫の、底れぬ暗渠。
その向こうに何が潜んでいるのか、文子には像もつかなかった。ただつ確かなのは、、自分が線の列に乗らなければ、佐々文子というのこれまでのが、すべて嘘として塗り潰されてしまうということだけだった。
翌朝、426の曜。
の空がみ始めた午、文子は誰にも気づかれないように支度をえた。昨夜のうちにの郎と学の美のために、や飯で作った塩結びをつ、の皮に包んで台所に置いておいた。き置きにはただ言、『母さん、急用で静岡のおばさんのところへってきます。夜には戻ります』とだけ記した。
居を通ると、昭雄はちゃぶ台に突っ伏したまま眠り込んでいた。
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元には、半分残っためた茶と、くしゃくしゃになったタバコの吸い殻がつ。酒も吸わない男が、どこからか古い煙を見つけて吸ったらしい。文子はその背に声をかけることもなく、勝から音もなくへた。
午分、鷹駅から央線の始発に乗り、京駅へ向かった。
京駅の番線ホームには、修学旅や商、張としき背広姿の男たちが溢れていた。文子は窓で、本線の急「伊豆号」の自由席切符を買い求めた。持ちのへそくりからした千数百円の費だったが、の震えは止まらなかった。
午分、ディーゼル関のい汽笛とともに、列は京駅のホームを滑りした。
品川を抜け、川崎の林するコンビナートの煙突を窓に見つめながら、文子はハンドバッグのの受領証を何度も指先で確かめた。
『静岡県榛原郡町原丁目 本子』
本子とは何者なのか。
もし相が、自分より若く、美しい女だったらどうするのか。
「佐々昭雄の妻です」と名乗った、相が嘲笑うように「あのは昔から私を忘れられないのよ」と言い放ったら、自分はそのに崩れ落ちずにいられるだろうか。
あるいは、相が病気で伏せっており、昭雄がれみからを送り続けていたのだとしたら、自分は夫の「偽善」
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を許すことができるのだろうか。族の犠牲のに成りつ善など、暴力と同じではないか。
横浜を過ぎ、、平塚とむにつれて、窓の景はの並みから、の陽を浴びた相模湾の青いへと変わっていった。のいトンネルを抜け、富士川の濁流を渡る頃には、内には静岡弁ののどかなイントネーションが混ざり始めていた。
しかし、文子の胸のにある氷の塊は、へるほどに鋭く尖り、内臓を突き破らんばかりに疼いていた。
午分、急は静岡駅に到着した。文子はそこで浜松きの普通列に乗り換えた。両編成の古いは、茶畑の広がるあいを縫うようにしてコトコトと揺れた。
牧之原台の広な茶畑が見えてきた。夜を控え、萌黄に輝く芽が段々畑を埋め尽くしている。その美しさが、今の文子には残酷なほど目に染みた。
「、です。井川鉄はお乗り換えです」
内アナウンスが流れ、文子はちがった。膝がガクガクと震えていた。
改札をると、駅広には茶のりがに乗って漂っていた。観客向けに「井川の川越し」の彫りの板がち、駅旅館や茶商の舗が軒を連ねている。
文子は呼吸を回し、駅交番のい引き戸をけた。
「あの……すみません。
をお伺いしたいのですが」
交番詰めの巡査は、がらみのの良さそうな男だった。