"毎月7000円を隠していた夫の20年の秘密" 第3話
髪の目ち始めた乱れ髪、内職の針仕事で荒れ果てた指先、着古して襟元が擦り切れた綿の割烹着。これが、夫に節約をいられ、信じ切ってきた妻の成れの果てなのか。
「そんなはずはない」と叫びたい自分と、「の数字は嘘をつかない」と告げる徹な経理の現実が、文子のので激しく殴りっていた。
計の振り子が、々しい音をてて午半を指した。
昭雄が帰ってくるまで、あと半。文子は震えるで計簿を李のへ戻すと、固く引き絞った帯を直した。
午分、玄関の引き戸がガラリとき、作業靴を脱ぐ鈍い音がした。
「おい、帰ったぞ」
いつもの、く抑えられた昭雄の声だった。
文子は台所で、煮え切った鍋のにち尽くしていた。今夜の献は、豆腐と油揚げの噌汁に、もやしと豚挽肉の炒め物。料の晩にはいつも、奮発して買ってきた豚ロースの姜焼きを作るのが佐々のの習わしだったが、今夜はとても肉の引き戸をける気になれなかった。
「お帰りなさい」
文子は夫の顔を見ずに、濡れた布巾でまな板の縁を拭いた。
昭雄は居へがり、いつものように作業着の着を脱いで鴨居の釘へ掛けた。そして、座布団のに正座し、胸ポケットへを伸ばしかけて——何かに気づいたようにきを止めた。
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毎そこにあるはずの、茶い角形の渡し袋がない。
「……そうか。今からはだったな」
昭雄は独り言のように呟き、し照れたようにを掻いた。
「通帳、記帳してきたか。ちゃんと入ってたか」
文子は鍋のを止め、ゆっくりと居へ入った。畳のには、先ほど記帳してきたばかりのの通帳が、ぽつんと置かれていた。
昭雄は通帳を取りげ、表をめくった。
万百円という印字を見た瞬、昭雄の眉がわずかに痙攣した。ほんの瞬、指先が張り、線が宙を泳いだのを、文子の目は見逃さなかった。
「……ああ、入ってるな。頼む」
昭雄は通帳をちゃぶ台の端へ押しやり、すぐにちがって呂敷包みから聞を取りそうとした。いつもなら「今も苦労をかける」と言ってをげるはずの男が、度も文子と目をわせようとしない。
「お父さん」
文子はく、静かな声で呼び止めた。
「何だ」
「お呂、沸いてるわよ。汗を流してきたらどうですか」
「……そうだな。先に浴びるか」
昭雄は逃げるようにちがり、脱所へと向かった。
引き戸が閉まり、ジャアジャアとの蛇を捻る音が響き渡ると同に、文子は素くちがり、玄関のへとりた。
鴨居に掛けられた昭雄の濃紺のジャンパー。油と鉄の匂いが染みついた、用のい布。
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文子は罪悪に胸を締め付けられながらも、躊躇うことなくその内ポケットにを差し入れた。
指先が、何枚かのい片に触れた。
取りしてみると、それは定期券入れの裏側に挟み込まれた、い更の束だった。
番にあったのは、武蔵野郵便局の朱の通信付印が押された、『郵便振替払込請求兼受領証』の控えだった。
付は、昨——昭48424。
額欄には、黒インクのボールペンで几帳面に記された『¥7,000』の数字。
そして、払込先の座番号の横にある受取の氏名欄を灯のに透かした瞬、文子の呼吸が完全に止まった。
『静岡県榛原郡町原丁目 本子』
女の名だった。
しかも、その受領証の束は枚だけではなかった。輪ゴムで留められた束をすと、今に入ってからのヶ分、さらに昨のの分まで、きっちり毎千円ずつ、同じ「本子」という物宛てに送された郵便局の受領証が、折り目正しくねられていた。
「……本、子」
文子の指先が激しく震え、片が擦れってカサカサと乾いた音をてた。
夫の親族に、本などという姓のはもいない。昭雄は潟の寒ので、兄弟はみな岡か条の鉄所で働いている。文子自の親戚筋にも、静岡に縁のある者など皆無だった。
呂から、桶がタイルに当たるカランという甲い音が響いた。
文子は受領証の束を握りしめたまま、居のちゃぶ台のに戻った。