"毎月7000円を隠していた夫の20年の秘密" 第2話
と野太い声を張りげている。昨からの物価騰は凄まじく、牛乳も灯油も毎のように値げされていた。
男の郎は業のに級し、旋盤の専課程にむための追加実習費が嵩んでいた。女の美は学になり、受験を控えて模擬試験代や参考代の請求がて続けに押し寄せていた。文子はここ半、魚で鰯のを落としたアラをタダ同然で分けてもらい、所の縫製から持ち帰ったブラウスのボタン付けの内職で、枚円の賃を夜な夜な稼ぎしていた。
そんな暮らしので、忽然と姿を現した「千円」という数字。
文子は買いしの籠を腕に掛けたまま、へは向かわず、で自宅のある連雀のへと引き返した。
佐々は、昭30代初に建てられた造平の文化宅だった。畳と畳半のに、さな板敷きの台所がついている。
玄関を入ると、いつもならすぐに買い物籠のを蔵庫へ移すはずの文子は、靴を脱ぎ散らかしたまま奥の畳へとがり込んだ。押し入れの段の襖をけ、埃を被った柳李の底から、古びた学ノートの束を抱えした。
文子が結婚した昭26から、も欠かさず記帳し続けてきた計簿だった。
粗悪なわら半で綴られた初期のものから、度成期に入って質が良くなった最のものまで、全部で冊。
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文子は畳のに正座し、番しい昭47のノートをいた。
『 与受取 、〇円』 『 与受取 、〇円』 『 与受取 、〇円』
昭47度のページを遡り、さらに昭46、昭45へとノートをめくっていく。料の総額は代とともに万円、万円、万円と減っていくが、控除欄と実受取額の突きわせを丹に計算で弾いていくうち、文子の背筋にじっとりと嫌な汗が滲みしてきた。
取りの現額と、の賃台帳に記載されているはずの基準賃の差額。
どこまで遡っても、昭雄が持ち帰る料袋の額面は、本来の取り額よりも正確に「千円」なかった。
昭38でも、昭35でも、昭32でも。
そして、文子のが止まったのは、黄ばんでの端がボロボロと崩れかけた、昭28のいノートのだった。
『昭 精初任 取〇、〇〇円』
その、昭雄が以勤めていた川の鉄所を辞め、失業保険が切れる寸にようやく拾われた精で受け取った最初の料袋。当の取り実額は万千百円だったはずだと、文子の記憶の糸が弾けた。そのも、昭雄は「試用期だからこれだけだ」と言って、万百円の入った封筒を差ししたのだ。
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「……」
文子のから、乾いた掠れ声が漏れた。
昭28の千円といえば、当の卒公務員の初任が千円らずだった代である。活費の半分にいだった。昭48の今となっては物価ががり、千円の相対な価値はがっていたが、それでも族が週、腹杯の飯をえる額であることに変わりはない。
にして万千円。で、百万円。
都であれば、さな建売宅のがそっくり払えてしまう額だった。
文子は畳に両をつき、荒い呼吸をえようとした。
昭雄は酒を呑まない。同僚との付きいで焼き鳥へ寄ることもに度あるかないかで、遣いとして渡している千円のから、理髪代と作業用の軍代をし、残りを銭入れに几帳面に残して文子に返そうとするほどの男だった。競馬や競輪の聞など、に持ち帰ったことすらない。
女がいるのか。
その疑が脳裏をよぎった瞬、文子の胃の腑が雑巾を絞るように激しく収縮した。
、どこかに別の女を囲っていたのか。自分には「がないから質素にいこう」と言い続け、子どもたちにしい運靴のすら躊躇させながら、毎欠かさず千円を別の女の元へ運び込んでいたのか。
文子はちがり、台所の鏡に映る自分の姿を凝した。