"毎月7000円を隠していた夫の20年の秘密" 第1話
昭48425の曜。武蔵野の台に張り付くように広がる鷹の町には、先特の湿った埃と、乾ききらない洗剤の匂いが入り混じったが吹き抜けていた。
佐々文子は、使い古して角の革が裂けかけた黒いハンドバッグを胸元に抱え込み、駅通りにある鷹支のい引き戸を押しけた。内は、特の異様な気に包まれていた。窓の向こうでは、ソロバンを弾く気よい骨の音と、械式の幣計算が札束を繰りす属な摩擦音が絶えなく反響している。
文子の夫である佐々昭雄が勤める「精作所」は、社員名らずのさな械部品だった。先の終業点呼の際、総務部を務めてきた老員の内から、枚の謄写版刷りのわら半が配られた。
『賃支払方法変更ノ件。昭度与ヨリ、従来ノ現渡シヲ改メ、全従業員原則トシテ座振込ト致スベク——』
度経済成の波が、いよいよこうした請け町にまで押し寄せてきた証だった。若い旋盤たちは「これで料に落とす配がねえ」「呑みでスラれずに済む」とい歯を見せて笑いっていたが、昭26に見いで昭雄のもとに嫁いできた文子にとって、それは以続いてきた厳粛な庭の儀式が消えることをしていた。
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毎25の夕刻、昭雄は油の匂いが染みついた濃紺の作業着のまま帰宅し、でを落としたゴム底の靴を揃えた。居の畳へがり、正座して胸ポケットから茶い角形の渡し袋を差しす。「今も頼む」。その言とともに渡される袋はずっしりとく、文子はそれを押しいただくように両で受け取り、仏壇へ度供えてから封を切るのが常だった。
「佐々様、佐々文子様、番窓へどうぞ」
甲い女子員の声に促され、文子は窓の製カウンターへみた。差しされたのは、紺のビニール表に文字で『』と箔押しされた、真しい普通預の通帳だった。
「お待たせいたしました。精様よりの度御与、確かにご入となっております。ご確認の、こちらの受領にお認印をお願いいたします」
文子はハンドバッグから象の丸印を取りし、言われた枠のへ丁寧に押印した。それから、何気ないつきで通帳をいた。
ページ目の、番のにのインクで械打ちされた数字が並んでいた。
『48-04-25 与振込 トウヨウセイキ 80,250』
文子の指先が、数字の角でぴたりと止まった。
万百円。
文子は老鏡を先までずりげ、もう度その列を指でなぞった。何度瞬きを繰り返しても、万の位に印字された「8」
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の数字が消えることはなかった。
胸の奥を、たい針で刺されたような覚がった。
先まで、昭雄が持ち帰っていた茶い料袋に入っていた現は、取りで万千百円だった。円玉や円玉の端数まで、総務が几帳面に詰めた貨のみまで覚えている。
先の末、闘の妥結に関するの回覧板が回ってきたが、基本のベースアップは千円程度であり、それはの支分から適用されるとかれていたはずだった。今の額面がいきなり千円もねがる理由は、どこを探しても見当たらない。
「あの……すみません」
文子はカウンター越しにを乗りし、窓の若い員へ声で尋ねた。
「この額、会社から振り込まれた額に違いはございませんか。何か、別の当などが紛れ込んでいるということは……」
員は審そうに眉を寄せ、元の入伝票の控えを素くめくった。
「ええ、違いございませんよ。精様からの括振込依頼に、佐々昭雄様のお名で『万百円』と記されております。何か都でもございましたか?」
「いえ……結構です。お数をおかけいたしました」
文子は会釈をして通帳をバッグの底へと滑り込ませた。
をた途端、初の気配を孕んだ温かいが文子の頬を打った。
駅のでは、百の主が「いよ、キャベツがひと玉百円だよ」