"私の退職金を奪った家族に、私は何も言わず家を出た" 第5話
息子から連絡を受け、加勢するために駆けつけてきたのだ。
「麻さん、竜太を責めててるんですってね」
久美子は靴を脱ぎ捨てるようにしてがり込み、リビングの座布団にどっかりと腰をろした。麻は茶もさず、ややかな線を向けた。
「お義母さん、私の座から移された420万円を、今すぐ私の座へ返してください」
「返す? 何を言ってるの。嫁のおはね、のために使うのが当たりなのよ」
久美子は提げバッグから扇子を取りし、パタパタと胸元を仰ぎながら、さも理を説くようにを尖らせた。
「名義がどうのこうのって、法律の理屈を持ちすんじゃないわよ。これからまれてくる孫のために、の祖母である私がしっかり預かって、必なに必なだけしてあげるって言ってるの。その方が無駄遣いもしなくてでしょう?」
「必なにお義母さんがす? つまり、私が子どものおむつを買うのにも、ミルクを買うのにも、いちいちお義母さんにお伺いをてて、許をもらえとおっしゃるのですか?」
「当たりじゃないの。誰のおかげで根のあるにんで、ご飯がべられるとってるの? 稼ぎのないが贅沢を言わないの」
麻のの奥で、カッと血が沸騰する音がした。帳の1目——『竜太さん奨学の残り60万円』の文字が脳裏をよぎる。
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「あなたの息子の奨学の残債を、私のこので括返済してあげるつもりだったのよ」と叫び散らせば、目のの親子を黙らせることができるかもしれない。しかし、麻はその言葉を喉元で必に押し留めた。
ここで奨学のことをかせば、「じゃあその60万だけ払って、残りは預かる」と言いくるめられるのが関のだ。を取り戻すための取引材料として自分の善を差しすことは、自らの誇りを売り渡すことと同義だった。
「お断りします。私のおです。私ので管理します。返してください」
麻が毅然と言い放つと、久美子の顔から笑みが消え、鬼のような形相へと歪んだ。
「なによ、その態度は! あなた、自分がに嫁いできたっていう自覚がりないんじゃないの!? 夫をてることもできない、義母に答えする、そんな性悪な女だとはわなかったわ!」
横で腕を組んでいた竜太が、苛ちに任せてちがった。子の脚がフローリングを障りに擦る。
「いい加減にしろよ、麻! 母さんがここまで歩み寄ってくれてるのに、何様なんだよおは! 文句があるなら、今すぐこのからていけ!」
久美子が甲い声で嘲笑った。
「そうよ! 夫のやり方に従えないなら、実にでも帰ればいいじゃない! 妊婦ので実に泣きついて、親に恥をかかせてごらんなさい!」
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2は、麻がいつものように泣き崩れ、許しを請うと確信していたに違いなかった。結婚してからの7、揉め事を嫌う麻が常に歩引いて妥協してきたからだ。
しかし、麻は静かにちがった。
「……そうですか」
腹部にを当て、ゆっくりと礼した。
「よく分かりました。ていきます」
寝に入り、押し入れから型のスーツケースを引きした。母子帳、健康保険証、マイナンバーカード、印鑑、帳、通帳の束、そして会社の青いファイル。類は最限の着替えを2分だけ詰め込んだ。棚の空き瓶から、乾きかけのいガーベラを抜き取り、傷まないようタオルに包んで鞄の底に忍ばせた。
「おい……麻、本気なのかよ? おい!」
慌てて寝の引き戸をけた竜太が、荷造りをする麻の腕を掴もうとした。麻はそのを、鋭いで払い除けた。
「触らないでください。ていけとおっしゃったのは、あなたです」
玄関へ向かい、スニーカーの靴紐を結ぶ、リビングの久美子は座布団に座ったまま、度も線を向けようとしなかった。
「どうせ晩をやせば、泣きついて戻ってくるわよ」
背に投げつけられた義母の乾いた捨て台を背負いながら、麻はい鉄の扉を静かに、そして確実に閉ざした。
夜8半を過ぎた夜は、4半ばとはいえ底えがした。
麻はきな通りまで歩いてタクシーを拾い、最寄り駅へ向かった。