"300億円の恩返し" 第15話
しかし、そのニュースにを留める者は、このには誰もいなかった。 の虚飾の破滅など、懸命に今をきる々にとっては何の価値もないノイズに過ぎないからだ。
「ミレイ」 兄がふと箸を止め、皿の横に置いた自分のを見つめた。 倉庫の仕事でついたしいさな傷痕。
「あのさ……俺、来から執役員として、物流現の全管理の研修を任されることになったんだ」 「本当!? すごいじゃない、お兄ちゃん!」
「ああ。……若い連が怪をしないように、して働ける倉庫を作りたいんだ。俺みたいな器用なでも、誰かの役にてる所があるって……今、すごく実してるよ」
兄の瞳には、と何つ変わらない、澄み切った誠実なが宿っていた。 を持っていようがいまいが、世界な企業の会だろうが、建材倉庫の作業員だろうが、このの魂の価値は、最初からミリも揺らいでなどいなかったのだ。
「お兄ちゃん」 私は自分の鞄から、さなスケジュール帳を取りした。 「次の連休、久しぶりにで登りにかない? 丹沢の、あのへ」
兄は瞬目を丸くし、それから満面の笑みを咲かせた。 「いいねえ! じゃあ、俺がでっかい筒に麦茶詰めて持っていくよ。……荷物はい方が、登ったの飯がうまいからな!」
「ふふっ、またそんなこと言って。
腰痛めないでよ?」
の笑い声が、さな定の空によく溶け込んでいく。 の柔らかな差しが、け放たれた簾の隙から差し込み、私たちの卓を温かく包み込んでいた。
の丈とは、が測るものではない。 自分がする者のために、どれだけ誠実に、どれだけ誇りくき抜いたか――その歩幅の広さこそが、の本当の『の丈』なのだ。
私たちは温かいお茶の湯呑みをカチンとわせ、しいののへと、力く歩みしていった。