"300億円の恩返し" 第12話
曜の朝、午。 千葉県内にある堅建材メーカー『名建材』の資材置き。 え切ったの朝靄の、作業着にヘルメットをかぶった兄・琢磨は、いつもと変わらぬつきで、倉庫の巨なシャッターをガラガラと押しげていた。
キーを差し込み、フォークリフトのエンジンをかける。 ブルルン、と気よい音が響き、兄は慣れたハンドルさばきで、尺の材パレットをトラックの荷台へと積み込み始めた。
「……琢磨!」 倉庫の入りに、息を切らして駆け込んできたのは、名建材の代表取締役社・名剛(歳)だった。 普段なら役員でに役勤してくるはずの社が、ネクタイを曲げ、息をく吐きながら直でっていた。
「社? おはようございます。朝の便の積み込みなら、あと分で終わりますが」 兄がフォークリフトを止め、ステップからひらりとりつ。
その瞬――。 名社は、で汚れたコンクリートの面のに、両膝を勢いよくつき、々と額を擦り付けたのだ。
ドサッ!!
「しゃ、社!? 何をしてるんですか!」 兄が慌てて駆け寄り、社の肩を抱き起こそうとした。
「琢磨君……! すまなかった! 本当に、申し訳なかった!!」 名社は涙を流しながら、兄のをがっしりと握りしめた。
「先週、亜央の克彦常務から話があった……俺は会社の融資が止められるのを恐れて、君に『来から向こうへ移籍してくれ』と迫り、理尽な顛末までかせた……! もの、会社を誰よりも支えてくれた君を、の顔を窺って売りばそうとしたんだ!」
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社は元の鞄から、枚の辞令を取りした。 「今朝番で、亜央の取・成沢氏から直々に話があったよ。『名建材への融資枠は無条件で倍増する。ただし、過に当な圧力をかけたことに対する謝罪と、柏琢磨氏の正当な待遇改善が条件だ』と……!」
社は震えるで辞令を差しした。 【辞令:資材課主任・柏琢磨を、本付で【執役員・ロジスティクス統括本部】に任命する】
収百万円から、役員報酬千百万円への抜擢。 の真面目な現仕事が、最の形で報われた瞬だった。
しかし――兄は、その辞令を両で受け取ると、優しく微笑んで社を見つめ返した。 「社。役員待遇のお気持ちは、ありがたく頂戴します。……ですが、俺はやっぱり、この現が番好きなんです」
兄は自分の作業着の袖で、フォークリフトのハンドルをキュッと拭った。 「肩きや収のために働いてきたんじゃないんです。仲と緒に汗を流して、正確に荷物を届ける……それが俺の誇りですから。役員の仕事は、寺田や若い連を育てながら、しずつ勉させてください」
名社は言葉を失い、やがて再び男泣きに泣き崩れた。 「琢磨君……君という男は……どこまで本物の男なんだ……!」
朝が昇り、黄のが建材倉庫の根を照らしした。
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誰かを貶めることもなく、誰かに媚び諂うこともなく、己ので真っ直ぐにち続けてきた男の背は、どんな富豪のスーツよりも眩しく輝いていた。
そのの夕方。業務を終えた兄と私は、座の老舗宝飾のブティックにいた。 理のカウンターのに、さなベルベットのジュエリーケースが置かれている。
には、繊細なミル打ちが施された、女性用のプラチナの指輪がつ。 央には、控えめながら極めて質なダイヤモンドが、静かにを放っていた。
「……お客様。こちらのお品物ですね」 袋をはめたが、恭しくケースをに取った。 兄がの暮れ、料のヶ分をコツコツと貯め、誰にも言わずに買い求めていた婚約指輪だった。
「男性用のリングにつきましては、未使用の保管状態が確認できましたので、規定通り満額での買い取り処理を完いたしました。……こちらの女性用リングも、買い取りの続きをめましょうか?」
の問いかけに、兄はしばらくの、黙って指輪を見つめていた。 ショーケースの柔らかなダウンライトが、ダイヤの切子面に反射し、まるでさなのように瞬いている。
「……いえ」 兄は静かに首を横に振った。